カテゴリー:労務

ホーム > 労務

【労務管理】65歳以降の介護保険料、医療費の自己負担割合と在職老齢年金制度

65歳以降の介護保険料、医療費の自己負担割合、在職老齢年金制度についてまとめてみます。

介護保険料

40歳から64歳まで

40歳から64歳までは、介護保険第2被保険者として、健康保険料と一緒に介護保険料を納めます。
勤務先で社会保険に加入している場合、40歳から64歳までは給与から天引きされて支払うかたちになっています。

65歳以降

65歳以降は介護保険第1号被保険者となるので、勤務先から給与を支払われる場合でも、65歳以降は給与から天引きされなくなり、個人で介護保険料を市区町村へ納めるようになります。
原則として年金から天引きされますが、年金受給額が一定額未満等の場合は納付書で支払ったり口座振替をしたりするようになります。

医療費の自己負担割合

病院等を受診したときに支払う医療費の自己負担割合は、年齢によって次のように定められています。(令和7年3月1日時点)

6歳(義務教育就学前)未満自己負担割合2割
70歳未満自己負担割合3割
70歳から74歳自己負担割合2割、ただし現役並み所得者は3割。
75歳以上自己負担割合1割。
ただし、現役並み所得者以外の一定所得以上の人は2割。現役並み所得者は3割。
70歳から74歳の間

70歳から74歳の間の医療費の自己負担割合は、所得に応じて2つに別れています。

勤務先で健康保険に加入している場合

  • 標準報酬月額が28万円未満の方は、自己負担割合2割※
  • 標準報酬月額が28万円以上の方は、自己負担割合3割

※誕生日が昭和19年4月1日生まれ以前の場合の一部負担金等の軽減特例措置があります。

標準報酬月額というのは、勤務先で支払う社会保険料の基礎となる金額です。入社して初めて社会保険に加入した時や毎年の標準報酬決定の時などに勤務先から通知されます。

国保の場合

原則として住民税課税所得145万円以上の場合、3割負担になります。

※収入合計額による例外もあります。

また、3割負担に該当する場合、医療費が高額になった場合の上限額(高額療養費の自己負担限度額)が標準報酬月額や課税所得によって3つに分かれます。

画像は厚生労働省「医療費の一部負担(自己負担)割合について」より

75歳以上

75歳以上になると、医療費の自己負担割合は所得に応じて3つに別れます。

現役並み所得者住民税課税所得145万円以上
※収入合計額や生年月日による例外もあります。
自己負担割合3割
一定以上所得者住民税課税所得が28万円以上で、かつ「年金収入+その他の合計所得金額」が単身世帯の場合200万円以上、後期高齢者が2人以上の場合計320万円以上自己負担割合 2割
※2割負担の場合、令和7年9月30日までは1か月の外来医療費の配慮措置があります。
一般住民税課税所得28万円未満(「一定以上所得」以外)自己負担割合 1割

3割負担に該当した場合、医療費が高額になった場合の上限額(高額療養費の自己負担限度額)は課税所得額によって3つに分かれます。

画像は兵庫県後期高齢者医療広域連合「後期高齢者医療制度のご案内」より

在職老齢年金(給与と老齢年金の調整)

老齢厚生年金は、受給権がある方は原則として65歳から受給できます。

老齢厚生年金を受給しながら働いている方が勤務先で厚生年金保険に加入している場合、給料と年金の合計額に応じて年金の支給額が調整される場合があります。

老齢厚生年金の「基本月額」と
「総報酬月額相当額」の合計が
「50万円」以下の場合
全額支給
老齢厚生年金の「基本月額」と
「総報酬月額相当額」の合計が
「50万円」を超える場合
次の計算式によって調整された額が支給されます。
基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)÷2
  • 50万円は、令和6年度の支給停止調整額です。
  • 「基本月額」は、配偶者や子どもなどを扶養している場合に追加される「加給年金額」を除いた老齢厚生年金の報酬比例部分の月額です。
  • 「総報酬月額相当額」は、おおざっぱにいうと、その月以前1年間の年収を12で割った額のようなものです。具体的には、勤務先の標準報酬月額に、その月以前1年間に支払われた標準賞与合計額を12で割った金額を加えたものです。

その他、厚生年金基金に加入していた期間がある場合など別途細かい計算のルールが定められています。

支給額が調整されている場合は、「総報酬月額相当額が変わった月」や「退職日の翌月」に調整額の見直しとなります。退職して1カ月以内に再就職して厚生年金保険に加入した場合は調整額の見直しがされません。

【労務管理】再就職援助計画とは

再就職援助計画とは

事業の縮小等で、一定期間内に相当数の労働者の離職が見込まれる場合、事業主は、離職する労働者に対して再就職の援助に努める義務があります。
事業主は最初の離職者が生じる日の1か月前までに「再就職援助計画」を作成してハローワークに提出し、認定を受けなければいけません。

政府は、認定された再就職援助計画に基づいて、労働者の再就職の促進のための取り組みをする事業主に対して必要な助成や援助を行います。また、該当する労働者の再就職の促進にも努めます。

再就職援助計画を作成しなければいけない場合

経済的な事情によって、『1つの事業所』で『1カ月に30人以上の離職者を生じさせる事業規模の縮小等』をしようとする場合に、再就職援助計画を作成する必要があります。
また、離職者が1か月に30人未満の場合にも、任意で再就職援助計画を作成することができます。

事業規模の縮小の理由には、事業の全部の廃止のほか、事業規模・事業活動の縮小や、事業の転換・再編が含まれます。

再就職援助計画に記載する内容

再就職援助計画に記載する内容は次のような内容です

  1. 事業の現状(事業所数や常時雇用する労働者数など)
  2. 再就職援助計画作成に至る経緯(具体的な理由)
  3. 計画対象労働者の氏名
  4. 再就職援助のための措置(労働者の再就職を援助するために事業主が何をするか)
  5. 労働組合等の意見

再就職援助計画対象労働者証明書

事業主が再就職援助計画の認定を受けると、ハローワークから対象労働者ごとに「再就職援助計画対象労働者証明書」が発行されます。
さらに、再就職援助計画の認定を受けた事業主が中小企業再生支援協議会等による事業再生・再構築・転廃業の支援を受けている等の一定の要件に該当する場合、ハローワークでは「再就職援助計画対象労働者証明書」に「特例対象者」としての記載をします。

「特例対象者」を雇い入れることは、雇い入れた再就職先の事業主が「早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)」を申請する場合に優遇助成を受けられる要件になります。そのため、特例対象者について就職促進が図られることになります。

再就職支援を行う事業主への支援策

再就職支援を行う事業主への支援策は次のようなものがあります。

  • 2025.2月時点の内容です。
  • 令和6年4月1日以降に提出された再就職援助計画等の対象者を雇い入れた場合。

早期再就職支援等助成金(再就職支援コース)

再就職援助計画を作成した事業主が、対象となった従業員に対して再就職の支援を行う場合に助成されます。

(1)再就職支援

離職する労働者の再就職支援を職業紹介事業者に委託し、一定期間内に再就職させた場合に、委託費用の4分の1~5分の4が助成されます。

さらに、再就職支援の一部として訓練を実施した場合の上乗せ(訓練加算として訓練実施にかかる委託費用×2/3の額。上限10万~50万円)や、再就職支援の一部としてグループワークを実施した場合の上乗せ(グループワーク加算として3回以上実施で1万円)があります。

1事業所につき1年度500人が上限です。

画像は厚生労働省HPより
(2)休暇付与支援

離職することが決まっている労働者に求職活動のための休暇を与えた場合、休暇1日当たり5,000円(中小企業の場合は8,000円)が助成されます。上限180日分。

さらに、対象者が離職の日の翌日から1か月以内に再就職できた場合、1人につき10万円が加算されます。

(3)職業訓練実施支援

再就職のための訓練を教育訓練施設等に委託して実施する場合、訓練実施にかかる委託費用の4分の3が助成されます。上限額10万~50万円。
賃金助成は1時間あたり960円(中小企業以外は480円)です。

※助成金の申請にはその他細かい要件があります。事前によく要件をご確認ください。

早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)

再就職援助計画の対象者等を、離職後3か月以内に期間の定めのない労働者として新たに雇い入れ、前の賃金よりも5%以上上昇させた事業主に助成されます。

早期雇入れ支援
  • 通常助成・・・支給対象者1人につき30万円が支給されます。
  • 優遇助成・・・「特例対象者」を雇い入れた場合、支給対象者1人につき40万円が支給されます。
人材育成支援

早期雇い入れ助成の対象者に、雇い入れ日から6か月以内にOFF-JTやOJTの訓練をした場合、次の額の賃金助成や経費助成が上乗せされます。

画像は厚生労働省HPより

※助成金の申請にはその他細かい要件があります。事前によくご確認ください。

出向・移籍のマッチング支援(公益財団法人産業雇用安定センター)

公益財団法人産業雇用安定センターで、事業主に対する出向・移籍に関する相談・マッチングなどの支援や、雇用調整の対象となった従業員にキャリアコンサルティングやアドバイスを行って貰えます。センターの利用は無料です。

【労務管理】退職や解雇についての証明書

退職証明書

労働者が退職する場合で、労働者から次の内容の証明書を求められたときは、使用者は遅滞なく「退職証明書」を作成して交付しなければいけません。

  • 使用期間
  • 業務の種類
  • その事業における地位
  • 賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)

なお、労働者の請求しない事項は記入してはいけません。

※ひな形のご利用は、利用者自身の責任において行ってください。ひな形のご利用により生じたいかなる損害についても、一切の責任を負いません。

解雇理由証明書

労働者を解雇する場合で、解雇予告日から退職までの間に労働者から『解雇の理由』について証明書を求められたときは、使用者は遅滞なく「解雇理由証明書」を作成して交付しなければいけません。


なお、退職日以降に解雇の理由について証明を求められた場合は、退職証明書を交付します。


また、解雇を予告した日以降に、労働者が解雇ではない理由で退職した場合には、その労働者の退職日以降は解雇理由証明書を発行する必要はありません。

※ひな形のご利用は、利用者自身の責任において行ってください。ひな形のご利用により生じたいかなる損害についても、一切の責任を負いません。


※労働者の請求しない事項は記入してはいけません。
※解雇理由証明書は、解雇の有効性を判断する上で重要な証拠となります。慎重に作成してください。
※解雇の理由は客観的に合理的で、社会通念上相当であると認められる必要があります。

解雇通知書

解雇は口頭で伝えることもできますが、労働者に正しく伝わらないことによるトラブルを避けるためにも、文書で伝えることをお勧めします。

なお、労働者を解雇しようとする場合は、少くとも解雇日の30日前までに予告をしなければいけません。
30日前に予告をしない場合は、30日よりも少ない日数分の平均賃金(解雇予告手当)を解雇する日までに支払う必要があります。
ただし、火災や震災などの自然災害によってどうしても事業の継続ができなくなった場合や労働者の重大または悪質な行為で解雇する場合で労働基準監督署から解雇予告除外認定を受けたときは、解雇予告手当を支払う必要がありません。

 

※ひな形のご利用は、利用者自身の責任において行ってください。ひな形のご利用により生じたいかなる損害についても、一切の責任を負いません。

【労務管理】2025年4月からの育児休業給付について

育児休業給付は、『雇用保険に加入している一定の要件を満たした労働者』が育児休業をした場合に支給される給付金です。

育児休業給付には、次の4種類の給付金があり、2025年4月から新しく始まる給付金が2種類あります。

  • 出生時育児休業給付金
  • 出生後休業支援給付金(2025年4月1日から)
  • 育児休業給付金
  • 育児時短就業給付金(2025年4月1日から)
画像は厚生労働省パンフレット「育児休業等給付の内容と支給申請手続」より

出生時育児休業給付金とは

出生時育児休業給付金は、原則として男性が育児休業を取得した場合に支給される給付金です。
(女性が出生時育児休業給付金を受給できるのは、養子の場合に限られます。)

主な支給要件は次のとおりです。

  • 子の誕生日からおおよそ8週間の期間内※に、4週間(28日)以内の期間を定めて産後パパ育休を取得する。2回まで分割可。
  • 休業開始日前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上(または80時間以上)の月が12か月以上ある。
  • 休業期間中の就業日数が、最大10日以下、10日を超える場合は就業した時間数が80時間以下である。
  • 有期雇用契約の労働者の場合は、一定の定められた期間までに契約期間が終わることが明らかでない。

※正確には「子の出生日または出産予定日のうち早い日」から「子の出生日または出産予定日のうち遅い日から起算して8週間を経過する日の翌日」までの期間内。

出生後休業支援給付金とは(2025年4月1日~)

出生後休業支援給付金は、2025年4月1日から新しく始まる給付金です。

一定の要件を満たした場合に「出生時育児休業給付金」や「育児休業給付金」に上乗せされて支給されます。

 

「出生後休業支援給付金」が「出生時育児休業給付金」に上乗せされる場合
  • 出生時育児休業給付金が支給される産後パパ育休を通算して14日以上取得すること。
  • 配偶者が子の誕生日の翌日に産後休業中であるなど、一定の要件に該当していること。
「出生後休業支援給付金」が「育児休業給付金」に上乗せされる場合
  • 育児休業給付金が支給される育児休業を対象期間に通算して14日以上取得すること。
  • 配偶者が子の誕生日の翌日に産後休業中であるなど、一定の要件に該当していること。

「出生時育児休業給付金」と「出生後休業支援給付金」の支給額

「出生時育児休業給付金」支給額は、休業を開始したときの賃金日額の67%で、「出生後休業支援給付金」が休業を開始したときの賃金日額の13%です。合わせて80%が支給されるようになります。

出生時育児休業給付金の支給額休業開始時賃金日額×休業日数(28日が上限)×67%
出生後休業支援給付金の支給額休業開始時賃金日額×休業日数(28日が上限)×13%

「休業開始時賃金日額」とは、出生時育児休業または育児休業を開始する前の、直近6か月間に支払われた賃金総額を180で割った額です。賃金支払基礎日数が11日未満の賃金月は除いて計算されるなどの一定の計算方法や、上限額と下限額などが定められています。

なお、育児休業等給付は非課税で、さらに育児休業中は申出により健康保険・厚生年金保険料が免除されるため、休業開始時賃金日額の80%給付は手取り10割相当となります。

ただし、休業開始時賃金日額に上限額があるので、すべての人が手取り10割相当になるわけではありません。また、出生時育児休業期間に事業主から賃金が支払われた場合は給付金が減額される場合があります。

育児休業給付金

育児休業給付金は、原則として1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した労働者に支給される給付金です。

支給要件は主に次のとおりです。

  • 1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得する。2回まで分割可。
  • 休業開始日前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上(または80時間以上)の月が12か月以上ある。
  • 支給単位となっている期間中に就業した日数が10日以下、10日を超える場合は就業した時間数が80時間以下である。
  • 有期雇用契約の労働者の場合は、一定の定められた期間までに契約期間が終わることが明らかでない。

労働者が子の母の場合、産後休業期間である子の誕生日の翌日から8週間は育児休業給付金の対象外です。ただし、産後休業期間は、育児休業給付金とは別に、勤務先の健康保険に加入していれば出産手当金が支給されます。国保の場合は出産手当金はありません。

また、 育児休業給付金が支給される期間は、原則として子が1歳の誕生日の前々日までですが、パパ・ママ育休プラス制度を利用する場合は子が1歳2か月、さらに保育所に入れない等の事情がある場合は子が1歳6か月、そして2歳になるまで、それぞれ延長できる制度になっています。

パパ・ママ育休プラス制度とは

父母ともに育児休業を取得する場合で、一定の要件を満たすと子が1歳2か月までの間に最大1年育児休業給付金が支給されます。母親の場合は、出産日(産前休業の末日)と産後休業期間と育児休業期間を合わせて最大1年、父親の場合は、出生時育児休業期間と育児休業期間を合わせて最大1年の期間となります。

「育児休業給付金」と「出生後休業支援給付金」の支給額

育児休業開始から180日目までの育児休業給付金の支給額
※出生時育児休業給付金の支給日数は、上限日数の180日に通算されます
休業開始時賃金日額×支給日数×67%
育児休業開始から181日目以降の育児休業給付金の支給額 休業開始時賃金日額×支給日数×50%
出生後休業支援給付金の支給額休業開始時賃金日額×休業日数×13%
※28日が上限。ただし、産後パパ育休で出生後休業支援給付金が支給されている場合などは、支給済日数分を差し引いた日数が上限。
※育児休業期間に事業主から賃金が支払われた場合は給付金が減額される場合があります。

育児時短就業給付金

令和7年4月1日から、労働者が2歳未満の子を養育するため所定労働時間を短くして働く場合、賃金が低下するなど一定の要件を満たすと「育児時短就業給付金」の支給を受けることができます。

給付率は、時短勤務中に支払われた賃金額の10%です。

こちらは厚生労働省から詳細パンフレットがまだ公開されていないので、詳細はまた別の機会にまとめたいと思います。

【労務管理】2025年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率が変わります

高年齢雇用継続給付とは

雇用継続給付は、職業生活の円滑な継続を援助・促進することを目的としたものです。

高年齢雇用継続給付は、60歳になった時等に比べて、賃金が75%未満に低下した状態で働く60歳以上65歳未満の一定の雇用保険被保険者に支給されます。

高年齢雇用継続給付のなりたち

平成6年に定年年齢が60歳に義務化され、平成10年に施行されました。
また、老齢厚生年金の支給開始年齢は平成13年度から60歳から65歳まで段階的に引上げになっています。


それらを背景に、高年齢雇用継続給付は平成7年4月に創設されましたが、65歳までの雇用確保の義務や70歳までの定年引上げ・定年廃止などが努力目標として設けられ、高年齢者の雇用を確保する環境が進展していることで給付率の見直しが進められています。

2025年4月1日からの支給率

60歳の誕生日の前日※が令和7年3月31日以前各月に支払われた賃金の0~15%が支給されます。
(これまでと同じ支給率)
60歳の誕生日の前日※が令和7年4月1日以降各月に支払われた賃金の0~10%が支給されます。
(変更後の支給率)
※60歳誕生日の前日時点で雇用保険の被保険者期間が5年未満の場合は、5年を満たすこととなった日と読みかえます。

現行の給付率と、2025年4月からの給付率を比較すると次のようになります。

60歳到達等時点の賃金月額と比較したときの賃金の低下率が75%以上の場合は、これまでと変わらず高年齢雇用継続給付は支給されません。

賃金の低下率が74.5%以下になると支給されますが、2025年4月以降は支給率が下がり、最高でも10%の支給となります。

【労務管理】標準報酬月額の決まり方と注意点

標準報酬月額

標準報酬月額は、健康保険厚生年金保険保険料や年金給付額等を算出する基礎として、事務処理の正確化と簡略化を図るために設けられているものです。

国保ではなく、勤め先で社会保険に加入している方は、皆さんに標準報酬月額が決められており、それに基づいて月々の保険料が給与から控除されます。

健康保険料率は、加入している健保組合や都道府県ごとに違います。

標準報酬月額の上限と下限

健康保険と厚生年金保険では、標準報酬月額の上限と下限の等級が異なっています。

  • 厚生年金は32等級。標準報酬月額の上限(650,000円)、下限(88,000円)。
  • 健康保険は50等級。標準報酬月額の上限(1,390,000円)、下限(58,000円)。
画像は協会けんぽ宮城県の場合。協会けんぽHPから引用。

厚生年金の標準報酬月額の上限の決まり方

もともと厚生年金の上限の決め方にはっきりとした基準はなかったようですが

  • 高所得だった人に対する年金額があまりにも高くなりすぎないようにする
  • 低所得であった人にも一定以上の給付を確保する

を目的に、平成元年改正以後は、上限額が被保険者全体の平均標準報酬月額のおおむね2倍となるように設定する考え方となり、平成16年に法定化されました。

標準報酬月額の上限に該当する被保険者の割合は、昭和60年以降は6~7%で推移しています。

健康保険制度における標準報酬月額の上限の決まり方

健康保険料率については、保険給付費用の予算額等に照らして、おおむね5年を通じて財政運営の健全性を保てるように決められています。
上限額は、最高等級に該当する被保険者の全被保険者に占める割合が1.5%を超えてその状態が継続すると認められる場合に、一定のルールで政令で等級を追加できることになっています。

標準報酬月額が決定されるタイミング

標準報酬月額は、次のタイミングで決定されます。

資格取得時勤務先で社会保険に初めて加入したとき
定時決定毎年4月~6月に支払われる給与の平均額
随時改定昇給や降給等で固定的賃金に変動があって、変動月から3か月間の報酬の平均額が2等級以上の変更となったとき
※支払い基礎日数等の細かい要件もありますが、ここでは記載を省きます。

ここで、厚生年金と健康保険で標準報酬月額の上限と下限が異なることで、随時改定の手続きにおいて注意が必要になることがあります。

標準報酬月額等級表の上限または下限にかかる随時改定の注意点

標準報酬月額等級表の上限または下限にわたる等級変更の場合は、2等級以上の変更がなくても随時改定の対象となります。

昇給の場合

健康保険
  • 従前の標準報酬が1等級・58,000円で報酬月額が53,000円未満の場合報酬の平均額が63,000円以上で、改定後、2等級・68,000円になります。
  • 従前の標準報酬が49等級・1,330,000円の場合報酬の平均額が1,415,000円以上で、改定後、50等級・1,390,000円になります。
厚生年金保険
  • 従前の標準報酬が1等級・88,000円で報酬月額が83,000円未満の場合報酬の平均額が93,000円以上で、改定後、2等級・98,000円になります。
  • 従前の標準報酬が31等級・620,000円の場合報酬の平均額が665,000円以上で、改定後、32等級・650,000円になります。

降給の場合

健康保険
  • 従前の標準報酬が2等級・68,000円の場合報酬の平均額が53,000円未満で、改定後、1等級・58,000円になります。
  • 従前の標準報酬が50等級・1,390,000円で報酬月額が1,415,000円以上の場合、報酬の平均額が1,355,000円未満で、改定後、49等級・1,330,000円になります。
厚生年金保険
  • 従前の標準報酬が2等級・98,000円の場合、報酬の平均額が83,000円未満で、改定後、1等級・88,000円になります。
  • 従前の標準報酬が32等級・650,000円で報酬月額が665,000円以上の場合、報酬の平均額が635,000円未満で、改定後、31等級・620,000円になります。

【労務管理】労働者と使用者とは

「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」が労働基準監督署に設置されます

2024年11月のフリーランス新法の施行に合わせて、「自分はフリーランスとして働いているけど、働き方が労働者なんじゃないかな・・?」と思っているフリーランスの方に向けた相談窓口が全国の労働基準監督署に設置されます。

※ここでのフリーランスは、業務委託を受ける事業者のことを指します。

フリーランスとして働く人の中には、実際の働き方は労働基準法上の労働者なのに、契約上は自営業者として扱われて、法律に基づく正しい保護が受けられていないといった問題が指摘されています。

労働基準法上の「労働者」にあたるかどうかは、「業務委託」や「請負」などの契約の形式などにかかわらず、実際の働き方等をみて総合的に判断されます。

厚生労働省が出している働き方の自己診断チェックリスト(フリーランス向け)

労働基準法が適用される労働者とは

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働基準法上の労働者にあたるかの判断は、『使用従属性』が認められるかどうか等によって判断されます。

『使用従属性』とは、次の両方の基準をまとめて呼んだものです。

  1. 他人の指揮監督下で労働していること
  2. 報酬が指揮監督下にある労働の対価として支払われていること

「使用従属性」に関する判断基準

「指揮監督下の労働」であること
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由発注者から仕事を貰った時に、それを受けるかどうか等、自分で決められるか
業務遂行上の指揮監督仕事の内容や、やり方について、発注者から具体的に指示をされて指揮命令されているか
拘束性勤務場所と時間が発注者等から指定されて管理されているか
代替性(指揮監督関係を補強する要素)発注者から受けた仕事を、自分の代わりに誰かにやってもらったり、自分の判断で補助者を使うことが認められているか
報酬の労務対償性報酬のベースが、発注者等の指揮監督の下で行う作業時間等となっているか
「労働者性」の判断を補強する要素
事業者性仕事に必要な機械等は発注者とフリーランスのどちらが用意しているか。
フリーランスが機械等を所有していて発注された作業に当たっている場合などは、自らが事業者として働いている性質が強くなると考えられます。
専属性の程度他の発注者等の業務を行うことが制度上制約されたり、他の発注者等の業務を行うことが時間的に余裕がなく難しかったりする場合等は労働者性が強いと考えられます。
その他採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること 等

労働基準法が定める使用者とは

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

労働基準法で使用者とは、次のように定められています。

・ 事業主

法人そのもの、個人事業主

・ 事業の経営担当者

法人の代表者、役員等

・労働者に関する事項について、事業主のために行為をする者

労働条件の決定、業務命令の発出、具体的な指揮監督等を行うもの(上司の命令の伝達者にすぎない場合は除きます)

使用者は、事業主だけでなく、役員等も含まれ、労働者に指揮命令をして労働をさせ、労働の対価として報酬を支払います。

「松下プラズマディスプレイ事件」(最高裁判所第2小法廷 平成21年12月18日 判決)では、偽装請負いの状態で派遣されていた労働者は『注文者から直接具体的な指揮監督を受けて作業に従事していた』が、「雇用契約は注文者以外と結ばれていた」「注文者は採用に関与していない」「注文者が給与の支払い額を決定していたわけではない」等の事情で、注文者とその労働者の間に雇用関係が黙示的に成立していたとはいえない、としています。

労働の具体的な指揮監督をするだけでは、使用者性が認められないといえます。

【労務管理】フリーランス新法が2024年11月から施行されます

フリーランス新法とは

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」は、フリーランスの⽅が適正に取引ができ、安定して働ける環境を整備するため、フリーランスに業務委託を発注する事業者に対して義務付けを行う法律です。


内容としては、大きく「取引の適正化」「就業環境の整備」のふたつがあります。

この法律で対象になるフリーランスとは
・従業員を使用していない個人
・従業員を使用していない代表者だけの法人(一人親方や一人社長)
また、ここでの従業員は『週の所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(または派遣労働者)』を指します。そのため、事業を手伝っているのが同居親族のみの場合は、従業員を使用していないとみなされてフリーランスに該当します。

取引の適正化:発注事業者に義務付けられること

取引の適正化については、公正取引委員会と中小企業庁が所管し、調査、検査、勧告、命令ができ、命令に違反した場合等には罰金等となります。

フリーランスに業務委託を発注する事業者に義務付けられる内容は、発注事業者の属性に応じて異なります。
なお、消費者がフリーランスに業務委託を発注する場合や、事業者間取引であっても業務委託ではない売買取引の場合は、この法律の対象になりません。

業務委託事業者の場合

業務委託事業者とは、フリーランスに業務を委託する事業者で、法人、個人、従業員の有無を問いません。
そのため、フリーランスがフリーランスに業務を委託する場合も含まれます。

義務等の内容
  • 書面やメール等で取引条件を明示すること
明示すべき事項
  1. 業務委託事業者と受託者の名称等
  2. 業務委託をした日
  3. 給付の内容
  4. 給付や役務の提供を受領する期日・場所
  5. 給付の内容を検査する場合は検査を完了する期日
  6. 報酬の額と支払期日
  7. 現金以外で支払う場合は、その方法で支払う額と支払い方法に関すること

特定業務委託事業者の場合

特定業務委託事業者とは、フリーランスに業務を委託する事業者で、「従業員を使用する個人」「従業員を使用する法人」「二以上の役員がいる法人」のことを指します。
資本金の額や企業の規模については要件がありません。

義務等の内容
  • 書面やメール等で取引条件を明示すること
  • 報酬を支払う期日等のルール
報酬の支払期日等のルール
  1. 報酬の支払い日は、給付などを受領した日から60日内かつできるだけ短い期間内で定める
  2. フリーランスに業務の全部または一部を再委託をする場合は、「再委託である旨」「元委託者の名称等」「元委託業務の支払期日」を明示して、元委託の支払期日から起算して30日以内かつできるだけ短い期日で報酬支払い日を定める
  3. 2の場合で元委託者から前払いを受けた場合、フリーランスの業務に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければいけない

1.2が定められない場合は、それぞれ給付を受領した日から60日、30日を経過する日が支払期日とみなされます。

また、支払期日は「〇月〇日まで」「納品後〇日以内」などの定め方は支払期日を定めているとは認められません。
「〇月〇日」「毎月〇日締切、翌月△日支払い」などのように定める必要があります。

1か月以上の業務委託をしている特定業務委託事業者の場合

特定業務委託事業者のうち、フリーランスに1か月以上の業務委託をしている事業者のことを指します。

義務等の内容
  • 書面やメール等で取引条件を明示すること
  • 報酬を支払う期日等のルール
  • 発注事業者としての7つの禁止行為のルール
7つの禁止行為
  1. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、発注物を受け取り拒否することの禁止
  2. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、発注時に決めていた報酬を発注後に減額することの禁止
  3. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、返品することの禁止
  4. 極端に低い報酬にすることの禁止
  5. 発注物の品質を維持する目的などきちんとした理由がないのに、発注者が強制的にフリーランスに物を購入させたりサービスを利用させたりすることの禁止
  6. 発注者のために金銭や役務などを不当に提供させてフリーランスの利益を害することの禁止(協賛金の要請など)
  7. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、発注を取り消ししたり内容を変更させたり、受領した後に発注側が作業に必要な費用を負担せずにやり直しや追加作業をさせることの禁止

就業環境の整備:発注事業者に義務付けられること

就業環境の整備については、厚生労働省が所管し、検査、勧告、命令ができ、命令に違反した場合等には罰金等となります。

就業環境整備が義務付けられるのは特定業務委託事業者で、4つのルールが義務付けられます。

1.募集情報の的確な表示について

広告等で広くフリーランスの業務委託を募集する場合、虚偽の募集内容や誤解を生じさせる募集内容にしてはいけません。
なお、特定の1人に対して業務委託を打診する場合は、既に契約交渉段階に入っていると想定されるので、この内容に含まれません。2人以上の複数人を相手に打診する場合は対象になります。

的確表示の対象となる募集情報事項
業務の内容仕事の内容、必要な能力や資格、検収の基準、不良品の取扱いに関する定め、成果物の知的財産権の許諾・譲渡の範囲、違約金に関する定めなど
就業の場所、時間及び期間に関する事項仕事をする場所、時間、納期、期間など
報酬に関する事項支払期日、支払方法、諸経費、知的財産権の譲渡・許諾の対価など
契約の解除に関する事項契約の解除事由、中途解約の際の費用・違約金に関する定めなど
特定受託事業者の募集を行う者に関する事項名称や業績など

2.妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮

6カ月以上の期間行う業務委託、または契約更新で6カ月以上の期間継続して行うこととなる業務委託をするフリーランスから申出があった場合、特定業務委託事業者は個別に必要な配慮をしなければいけません。

配慮の申出ができるフリーランスは、現に育児介護等と両立しつつ業務を行うもの、またはそういった具体的な予定があるものです。

フリーランスから申出があったのに、それを無視するといったことは法違反となります。
また、申し出の内容等にはプライバシーに関する情報も含まれるので、情報の共有範囲は必要最低限にするなどプライバシー保護の観点にも気を付ける必要があります。

  • 配慮の申し出の内容などを把握する。
  • 配慮の内容や取りうる選択肢を検討する。
  • 配慮の内容が確定したら、フリーランスに速やかに伝える。
  • 十分に検討しても業務の性質等によってやむを得ず配慮できない場合はその旨を伝える。

なお、特定業務委託事業者には、可能な範囲で対応を講じることが求められています。
申し出の内容を必ず実現することまで求められているわけではありません。

3.ハラスメント対策についての体制整備など

セクハラ、マタハラ、パワハラを行ってはいけないことはもちろん、これらの相談に応じる体制の整備などをしなければいけません。
相談を行ったフリーランスに対して契約の解除などの不利益な取扱いをしてもいけません。

これらは社内の労働者に対して啓発している社内体制やツールを活用するのも良さそうです。

4.契約の解除についてのルール

特定業務委託事業者は、6カ月以上の期間行う業務委託または契約更新で6カ月以上の期間継続して行うこととなる業務委託をしているフリーランスの契約を解除する場合や、契約期間満了後に更新をしない場合、少なくとも30日前までにその予告をしなければいけません。

両者間の合意による契約解除の場合はこの法律に該当しませんが、その合意がフリーランスの自由な意思によるものなのかは慎重に判断する必要があります。

また、フリーランスが契約解除を予告された日から契約が満了する日までの間に、契約解除の理由を開示するよう求めてきた場合は、書面やメール等で理由を開示しなければいけません。ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合などは例外となります。

事前予告の例外事由と理由開示の例外事由は次のとおりです。

【事前予告の例外事由】

  • 災害やその他やむを得ない事由で予告することが困難な場合
  • フリーランスに責めに帰すべき事由があり、直ちに契約を解除する必要がある場合
  • 再委託の際、元委託者からの契約の全部又は一部の解除等によって、フリーランスの業務の大部分が不要となってしまう等、直ちに契約を解除せざるを得ない場合
  • 契約の更新によって継続して業務委託を行う場合等で、業務委託の期間が30日間以下の短期間である一の契約(個別契約)を解除しようとする場合
  • 基本契約が締結されている場合で、フリーランスの事情で相当な期間、個別の契約が締結されていない場合

【理由開示の例外事由】

  • 第三者の利益を害するおそれがある場合
  • 他の法令に違反することとなる場合

【労務管理】9月は「職場の健康診断実施強化月間」です

厚生労働省では、9月を「職場の健康診断実施強化月間」と位置づけ、健康診断及び事後措置の実施の徹底、医療保険者との連携を呼びかけています。

職場での健康診断

事業者は、労働安全衛生法第66条に基づいて、労働者に医師による健康診断を実施しなければいけません。
また、労働者も、健康診断を受けなければいけないことが定められています。

労働安全衛生法
第六十六条(健康診断)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

事業者に実施が義務づけられている健康診断の種類

事業者が行わなければいけない健康診断には、次のようなものがあります。

雇入時の健康診断          
(労働安全衛生規則第43条)
常時使用する労働者を雇い入れるときに実施する。
※対象労働者が医師の健康診断を受けてから3か月以内の場合の例外あり。
定期健康診断
(労働安全衛生規則第44条)
常時使用する労働者のうち、特定業務従事者ではない者に対して実施する。
1年以内ごとに1回。
特定業務従事者の健康診断
(労働安全衛生規則第45条)
深夜業を含む業務や、有害放射線にさらされる業務など、労働安全衛生規則で定めている特定の業務に常時従事する労働者(特定業務従事者)に対して実施する。
その業務への配置替えの時と、6月以内ごとに1回。
海外派遣労働者の健康診断
(労働安全衛生規則第45条の2)
海外に6ヶ月以上派遣する労働者に対して実施する。
海外に6月以上派遣する時と、帰国後に国内業務に就かせる時。
給食従業員の検便
(労働安全衛生規則第47条)
事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者に対して実施する。
雇入れの時と、配置替えの時。

健康診断をした後の措置

令和4年労働安全衛生調査(実態調査)によると、一般健康診断を実施した事業所は全体で90.1%で、そのうち所見のあった労働者がいるのは全体で69.8%となっており、約7割の労働者に所見が見られていることがわかります。

従業員数30人未満の事業所では一般健康診断を実施している割合が9割を下回っており、従業員数が少ないほど、一般健康診断の実施率が低い傾向がわかります。

また、所見のあった労働者がいる割合は、従業員数が多い事業所の方が多いです。

所見のあった労働者に対して、措置を講じた事業所は全体で90.8%となっています。そのうち、医師または歯科医師に意見を聴いた割合が最も多く45.3%となっています。

健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針

厚生労働省は、健康診断の結果に基づく就業上の措置が適切かつ有効に実施されるため、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を定めています。

健康診断の実施手順を抜粋すると、次のような流れとなります。

(1)健康診断の実施
事業者は、健康診断の受診率が向上するように、労働者に対して周知や指導に努めます。
(2)二次健康診断の受診勧奨等
事業者は、健康診断の結果、二次健康診断の対象となる労働者を把握して、対象者に受診を勧奨します。
また、二次健康診断の結果を事業者に提出するように働きかけます。
※二次健康診断の対象となる労働者とは
一次健康診断の結果、「血圧検査」「血中脂質検査」「血糖検査」「腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定」す   べての検査項目について『異常の所見』がでている場合。
または、産業医等が二次健康診断を必要と認めたとき。
(3)健康診断の結果についての医師等からの意見の聴取
健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者について、医師等の意見を聴く必要があります。
意見を聴く医師等は、産業医や、産業医の選任義務がない事業場では地域産業保健センターの活用を図ること等が適当です。
事業者は、適切に意見を聴くため、必要な情報提供をします。就業上の措置に関し、その必要性の有無、講ずべき措置の内容等に係る意見を医師等から聴きます。
(4)就業上の措置の決定等
医師等の意見に基づいて、就業区分に応じた就業上の措置を決定する場合には、あらかじめ対象となる労働者の意見を聴き、十分な話合いを通じて、その労働者の了解が得られるよう努めます。
産業医の選任義務のある事業場では、必要に応じて、産業医の同席の下に労働者の意見を聴くことが適当です。

その他、健康診断について、次のことを留意する必要があります。

  • 健康情報の保護に留意して、適正に取扱いをする。
  • 健康診断結果の記録は保存する。
  • 健康診断結果は、異常の所見の有無にかかわらず、遅滞なく労働者に通知する。
  • 一般健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対して、医師又は保健師による保健指導を受けさせるよう努める。
  • 再検査又は精密検査を行う必要のある労働者に対して、受診を勧奨し、意見を聴く医師等に検査の結果を提出するよう働きかけることが適当。
  • 再検査又は精密検査は、一律には事業者にその実施が義務付けられていないが、有機溶剤予防規則等で特殊健康診断として規定されているものについては、事業者にその実施が義務付けられているので注意する。

【労務管理】裁量労働制とは

労働基準法では、使用者に対して、労働者に原則として1日8時間・週40時間を超えて労働させてはならないと定めています。

しかし、労働時間制を柔軟にするための特別な制度もあり、昭和62年の労働基準法改正(昭和63年4月施行)によって設けられた「裁量労働制」はそのひとつです。

裁量労働制は、『労働の量(実労働時間の長さ)』ではなく『労働の質(成果)』による報酬の支払いを可能にするものとも言われています。

裁量労働制により、効率的な働き方による生産性の向上や、柔軟で多様な働き方につながるといった労使双方にとってのメリットが期待されますが、一方で、正しく運用されないと長時間労働や労働者の心身に負担をかけやすくなってしまう懸念があります。

似たような制度で高度プロフェッショナル制度というものがありますが、高度プロフェッショナル制度は年収1,075万円以上という年収要件がある一方、裁量労働制に年収要件はありません。

裁量労働制の種類

昭和62年の労働基準法改正によって設けられた裁量労働制は、その後何度か法改正を経て、現在は「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2つがあります。

専門業務型裁量労働制

対象労働者専門性の高い業務として定められた次の20業務に従事する労働者
1 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
2 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析又は設計の業務
3 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材若しくは編集の業務
4 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
7 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
8 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
9 ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
11 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
13 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
14 公認会計士の業務
15 弁護士の業務
16 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
17 不動産鑑定士の業務
18 弁理士の業務
19 税理士の業務
20 中小企業診断士の業務
労働時間労使協定で定めた時間を労働したものとみなす(=みなし労働時間)
導入の流れ①次の必要事項等を定めて労使協定を結び、労働基準監督署長に届出する。
【労使協定の内容】
・対象とする業務
・1日の労働時間としてみなす労働時間
・対象業務の遂行手段等について、使用者が具体的な指示をしないこと
・健康・福祉確保措置
・苦情処理措置
・制度の適用に労働者本人の同意を得なければいけないこと
・制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと
・制度の適用に関する同意の撤回の手続き など
②必要に応じて就業規則等の整備、届出。
③労働者本人の同意を得る。同意の取り方について具体的な手続を労使協定で定めることが適当。
④制度を実施する。

また、労働新聞社の報道によると、労働基準監督署の窓口において、『対象業務に付随する補助的業務のみに従事している場合』は要件を満たさないものとして労使協定届を不受理とし、指導文書を交付する対応がとられているようです。

企画業務型裁量労働制

対象労働者事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務のうち、以下の4つの要件すべてを満たす業務を行う労働者
・業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること(例えば対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど)
・企画、立案、調査及び分析の業務であること
・業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること
・業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
労働時間労使委員会の決議であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす(=みなし労働時間)
導入の流れ①「労使委員会」を設置する
②労使委員会で決議する
【決議しなければならない事項】
・制度の対象とする業務
・対象労働者の範囲
・1日の労働時間としてみなす時間
・健康・福祉確保措置
・苦情処理措置
・制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと
・制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと
・制度の適用に関する同意の撤回の手続
・対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと など
③必要に応じて就業規則等の整備、届出。
④労働者本人の同意を得る。同意の取り方について労使委員会で決議することが適当。
⑤制度を実施する。
⓺決議の有効期限の始期から起算して初回は6箇月以内に1回、その後1年以内ごとに1回、所轄労働基準監督署へ定期報告を行う。

裁量労働制を適用されている労働者の傾向

令和3年に公表された「裁量労働制実態調査」によると、 裁量労働制を適用されている労働者には次のような傾向がみられます。
(参考 国立国会図書館 調査と情報―ISSUE BRIEF― No. 1189(2022. 3.31) 裁量労働制をめぐる課題

  • 裁量労働制を適用されている労働者の方がそうでない労働者よりも「1日の平均労働時間数」が21分長く、「労働時間が週60時間以上」の割合や、「深夜に仕事をすることがある」割合も高い
  • 1日の平均睡眠時間は、裁量労働制を適用されている労働者とそうでない労働者でほぼ同じ
  • 健康状態については、裁量労働制を適用されている労働者の方がそうでない労働者と比べて「健康状態がよい」と答える傾向がある
  • 裁量労働制を適用されている労働者の約4割が自身に適用されているみなし労働時間を把握していない

アーカイブ

[ご相談無料]まずはお気軽にご連絡ください。TEL:0120-26-4445[受付時間平日10:00〜21:00(土日祝日は休み)]

お問い合わせ

ご相談無料

まずはお気軽にご連絡ください

株式会社アントレコンサルティング

0120-26-4445

受付時間 9:00〜19:00(月曜〜土曜)

お問い合わせ

ページ上部へ戻る