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【労務管理】2025年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率が変わります

高年齢雇用継続給付とは

雇用継続給付は、職業生活の円滑な継続を援助・促進することを目的としたものです。

高年齢雇用継続給付は、60歳になった時等に比べて、賃金が75%未満に低下した状態で働く60歳以上65歳未満の一定の雇用保険被保険者に支給されます。

高年齢雇用継続給付のなりたち

平成6年に定年年齢が60歳に義務化され、平成10年に施行されました。
また、老齢厚生年金の支給開始年齢は平成13年度から60歳から65歳まで段階的に引上げになっています。


それらを背景に、高年齢雇用継続給付は平成7年4月に創設されましたが、65歳までの雇用確保の義務や70歳までの定年引上げ・定年廃止などが努力目標として設けられ、高年齢者の雇用を確保する環境が進展していることで給付率の見直しが進められています。

2025年4月1日からの支給率

60歳の誕生日の前日※が令和7年3月31日以前各月に支払われた賃金の0~15%が支給されます。
(これまでと同じ支給率)
60歳の誕生日の前日※が令和7年4月1日以降各月に支払われた賃金の0~10%が支給されます。
(変更後の支給率)
※60歳誕生日の前日時点で雇用保険の被保険者期間が5年未満の場合は、5年を満たすこととなった日と読みかえます。

現行の給付率と、2025年4月からの給付率を比較すると次のようになります。

60歳到達等時点の賃金月額と比較したときの賃金の低下率が75%以上の場合は、これまでと変わらず高年齢雇用継続給付は支給されません。

賃金の低下率が74.5%以下になると支給されますが、2025年4月以降は支給率が下がり、最高でも10%の支給となります。

【労務管理】標準報酬月額の決まり方と注意点

標準報酬月額

標準報酬月額は、健康保険厚生年金保険保険料や年金給付額等を算出する基礎として、事務処理の正確化と簡略化を図るために設けられているものです。

国保ではなく、勤め先で社会保険に加入している方は、皆さんに標準報酬月額が決められており、それに基づいて月々の保険料が給与から控除されます。

健康保険料率は、加入している健保組合や都道府県ごとに違います。

標準報酬月額の上限と下限

健康保険と厚生年金保険では、標準報酬月額の上限と下限の等級が異なっています。

  • 厚生年金は32等級。標準報酬月額の上限(650,000円)、下限(88,000円)。
  • 健康保険は50等級。標準報酬月額の上限(1,390,000円)、下限(58,000円)。
画像は協会けんぽ宮城県の場合。協会けんぽHPから引用。

厚生年金の標準報酬月額の上限の決まり方

もともと厚生年金の上限の決め方にはっきりとした基準はなかったようですが

  • 高所得だった人に対する年金額があまりにも高くなりすぎないようにする
  • 低所得であった人にも一定以上の給付を確保する

を目的に、平成元年改正以後は、上限額が被保険者全体の平均標準報酬月額のおおむね2倍となるように設定する考え方となり、平成16年に法定化されました。

標準報酬月額の上限に該当する被保険者の割合は、昭和60年以降は6~7%で推移しています。

健康保険制度における標準報酬月額の上限の決まり方

健康保険料率については、保険給付費用の予算額等に照らして、おおむね5年を通じて財政運営の健全性を保てるように決められています。
上限額は、最高等級に該当する被保険者の全被保険者に占める割合が1.5%を超えてその状態が継続すると認められる場合に、一定のルールで政令で等級を追加できることになっています。

標準報酬月額が決定されるタイミング

標準報酬月額は、次のタイミングで決定されます。

資格取得時勤務先で社会保険に初めて加入したとき
定時決定毎年4月~6月に支払われる給与の平均額
随時改定昇給や降給等で固定的賃金に変動があって、変動月から3か月間の報酬の平均額が2等級以上の変更となったとき
※支払い基礎日数等の細かい要件もありますが、ここでは記載を省きます。

ここで、厚生年金と健康保険で標準報酬月額の上限と下限が異なることで、随時改定の手続きにおいて注意が必要になることがあります。

標準報酬月額等級表の上限または下限にかかる随時改定の注意点

標準報酬月額等級表の上限または下限にわたる等級変更の場合は、2等級以上の変更がなくても随時改定の対象となります。

昇給の場合

健康保険
  • 従前の標準報酬が1等級・58,000円で報酬月額が53,000円未満の場合報酬の平均額が63,000円以上で、改定後、2等級・68,000円になります。
  • 従前の標準報酬が49等級・1,330,000円の場合報酬の平均額が1,415,000円以上で、改定後、50等級・1,390,000円になります。
厚生年金保険
  • 従前の標準報酬が1等級・88,000円で報酬月額が83,000円未満の場合報酬の平均額が93,000円以上で、改定後、2等級・98,000円になります。
  • 従前の標準報酬が31等級・620,000円の場合報酬の平均額が665,000円以上で、改定後、32等級・650,000円になります。

降給の場合

健康保険
  • 従前の標準報酬が2等級・68,000円の場合報酬の平均額が53,000円未満で、改定後、1等級・58,000円になります。
  • 従前の標準報酬が50等級・1,390,000円で報酬月額が1,415,000円以上の場合、報酬の平均額が1,355,000円未満で、改定後、49等級・1,330,000円になります。
厚生年金保険
  • 従前の標準報酬が2等級・98,000円の場合、報酬の平均額が83,000円未満で、改定後、1等級・88,000円になります。
  • 従前の標準報酬が32等級・650,000円で報酬月額が665,000円以上の場合、報酬の平均額が635,000円未満で、改定後、31等級・620,000円になります。

【労務管理】労働者と使用者とは

「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」が労働基準監督署に設置されます

2024年11月のフリーランス新法の施行に合わせて、「自分はフリーランスとして働いているけど、働き方が労働者なんじゃないかな・・?」と思っているフリーランスの方に向けた相談窓口が全国の労働基準監督署に設置されます。

※ここでのフリーランスは、業務委託を受ける事業者のことを指します。

フリーランスとして働く人の中には、実際の働き方は労働基準法上の労働者なのに、契約上は自営業者として扱われて、法律に基づく正しい保護が受けられていないといった問題が指摘されています。

労働基準法上の「労働者」にあたるかどうかは、「業務委託」や「請負」などの契約の形式などにかかわらず、実際の働き方等をみて総合的に判断されます。

厚生労働省が出している働き方の自己診断チェックリスト(フリーランス向け)

労働基準法が適用される労働者とは

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働基準法上の労働者にあたるかの判断は、『使用従属性』が認められるかどうか等によって判断されます。

『使用従属性』とは、次の両方の基準をまとめて呼んだものです。

  1. 他人の指揮監督下で労働していること
  2. 報酬が指揮監督下にある労働の対価として支払われていること

「使用従属性」に関する判断基準

「指揮監督下の労働」であること
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由発注者から仕事を貰った時に、それを受けるかどうか等、自分で決められるか
業務遂行上の指揮監督仕事の内容や、やり方について、発注者から具体的に指示をされて指揮命令されているか
拘束性勤務場所と時間が発注者等から指定されて管理されているか
代替性(指揮監督関係を補強する要素)発注者から受けた仕事を、自分の代わりに誰かにやってもらったり、自分の判断で補助者を使うことが認められているか
報酬の労務対償性報酬のベースが、発注者等の指揮監督の下で行う作業時間等となっているか
「労働者性」の判断を補強する要素
事業者性仕事に必要な機械等は発注者とフリーランスのどちらが用意しているか。
フリーランスが機械等を所有していて発注された作業に当たっている場合などは、自らが事業者として働いている性質が強くなると考えられます。
専属性の程度他の発注者等の業務を行うことが制度上制約されたり、他の発注者等の業務を行うことが時間的に余裕がなく難しかったりする場合等は労働者性が強いと考えられます。
その他採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること 等

労働基準法が定める使用者とは

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

労働基準法で使用者とは、次のように定められています。

・ 事業主

法人そのもの、個人事業主

・ 事業の経営担当者

法人の代表者、役員等

・労働者に関する事項について、事業主のために行為をする者

労働条件の決定、業務命令の発出、具体的な指揮監督等を行うもの(上司の命令の伝達者にすぎない場合は除きます)

使用者は、事業主だけでなく、役員等も含まれ、労働者に指揮命令をして労働をさせ、労働の対価として報酬を支払います。

「松下プラズマディスプレイ事件」(最高裁判所第2小法廷 平成21年12月18日 判決)では、偽装請負いの状態で派遣されていた労働者は『注文者から直接具体的な指揮監督を受けて作業に従事していた』が、「雇用契約は注文者以外と結ばれていた」「注文者は採用に関与していない」「注文者が給与の支払い額を決定していたわけではない」等の事情で、注文者とその労働者の間に雇用関係が黙示的に成立していたとはいえない、としています。

労働の具体的な指揮監督をするだけでは、使用者性が認められないといえます。

【労務管理】フリーランス新法が2024年11月から施行されます

フリーランス新法とは

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」は、フリーランスの⽅が適正に取引ができ、安定して働ける環境を整備するため、フリーランスに業務委託を発注する事業者に対して義務付けを行う法律です。


内容としては、大きく「取引の適正化」「就業環境の整備」のふたつがあります。

この法律で対象になるフリーランスとは
・従業員を使用していない個人
・従業員を使用していない代表者だけの法人(一人親方や一人社長)
また、ここでの従業員は『週の所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(または派遣労働者)』を指します。そのため、事業を手伝っているのが同居親族のみの場合は、従業員を使用していないとみなされてフリーランスに該当します。

取引の適正化:発注事業者に義務付けられること

取引の適正化については、公正取引委員会と中小企業庁が所管し、調査、検査、勧告、命令ができ、命令に違反した場合等には罰金等となります。

フリーランスに業務委託を発注する事業者に義務付けられる内容は、発注事業者の属性に応じて異なります。
なお、消費者がフリーランスに業務委託を発注する場合や、事業者間取引であっても業務委託ではない売買取引の場合は、この法律の対象になりません。

業務委託事業者の場合

業務委託事業者とは、フリーランスに業務を委託する事業者で、法人、個人、従業員の有無を問いません。
そのため、フリーランスがフリーランスに業務を委託する場合も含まれます。

義務等の内容
  • 書面やメール等で取引条件を明示すること
明示すべき事項
  1. 業務委託事業者と受託者の名称等
  2. 業務委託をした日
  3. 給付の内容
  4. 給付や役務の提供を受領する期日・場所
  5. 給付の内容を検査する場合は検査を完了する期日
  6. 報酬の額と支払期日
  7. 現金以外で支払う場合は、その方法で支払う額と支払い方法に関すること

特定業務委託事業者の場合

特定業務委託事業者とは、フリーランスに業務を委託する事業者で、「従業員を使用する個人」「従業員を使用する法人」「二以上の役員がいる法人」のことを指します。
資本金の額や企業の規模については要件がありません。

義務等の内容
  • 書面やメール等で取引条件を明示すること
  • 報酬を支払う期日等のルール
報酬の支払期日等のルール
  1. 報酬の支払い日は、給付などを受領した日から60日内かつできるだけ短い期間内で定める
  2. フリーランスに業務の全部または一部を再委託をする場合は、「再委託である旨」「元委託者の名称等」「元委託業務の支払期日」を明示して、元委託の支払期日から起算して30日以内かつできるだけ短い期日で報酬支払い日を定める
  3. 2の場合で元委託者から前払いを受けた場合、フリーランスの業務に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければいけない

1.2が定められない場合は、それぞれ給付を受領した日から60日、30日を経過する日が支払期日とみなされます。

また、支払期日は「〇月〇日まで」「納品後〇日以内」などの定め方は支払期日を定めているとは認められません。
「〇月〇日」「毎月〇日締切、翌月△日支払い」などのように定める必要があります。

1か月以上の業務委託をしている特定業務委託事業者の場合

特定業務委託事業者のうち、フリーランスに1か月以上の業務委託をしている事業者のことを指します。

義務等の内容
  • 書面やメール等で取引条件を明示すること
  • 報酬を支払う期日等のルール
  • 発注事業者としての7つの禁止行為のルール
7つの禁止行為
  1. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、発注物を受け取り拒否することの禁止
  2. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、発注時に決めていた報酬を発注後に減額することの禁止
  3. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、返品することの禁止
  4. 極端に低い報酬にすることの禁止
  5. 発注物の品質を維持する目的などきちんとした理由がないのに、発注者が強制的にフリーランスに物を購入させたりサービスを利用させたりすることの禁止
  6. 発注者のために金銭や役務などを不当に提供させてフリーランスの利益を害することの禁止(協賛金の要請など)
  7. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、発注を取り消ししたり内容を変更させたり、受領した後に発注側が作業に必要な費用を負担せずにやり直しや追加作業をさせることの禁止

就業環境の整備:発注事業者に義務付けられること

就業環境の整備については、厚生労働省が所管し、検査、勧告、命令ができ、命令に違反した場合等には罰金等となります。

就業環境整備が義務付けられるのは特定業務委託事業者で、4つのルールが義務付けられます。

1.募集情報の的確な表示について

広告等で広くフリーランスの業務委託を募集する場合、虚偽の募集内容や誤解を生じさせる募集内容にしてはいけません。
なお、特定の1人に対して業務委託を打診する場合は、既に契約交渉段階に入っていると想定されるので、この内容に含まれません。2人以上の複数人を相手に打診する場合は対象になります。

的確表示の対象となる募集情報事項
業務の内容仕事の内容、必要な能力や資格、検収の基準、不良品の取扱いに関する定め、成果物の知的財産権の許諾・譲渡の範囲、違約金に関する定めなど
就業の場所、時間及び期間に関する事項仕事をする場所、時間、納期、期間など
報酬に関する事項支払期日、支払方法、諸経費、知的財産権の譲渡・許諾の対価など
契約の解除に関する事項契約の解除事由、中途解約の際の費用・違約金に関する定めなど
特定受託事業者の募集を行う者に関する事項名称や業績など

2.妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮

6カ月以上の期間行う業務委託、または契約更新で6カ月以上の期間継続して行うこととなる業務委託をするフリーランスから申出があった場合、特定業務委託事業者は個別に必要な配慮をしなければいけません。

配慮の申出ができるフリーランスは、現に育児介護等と両立しつつ業務を行うもの、またはそういった具体的な予定があるものです。

フリーランスから申出があったのに、それを無視するといったことは法違反となります。
また、申し出の内容等にはプライバシーに関する情報も含まれるので、情報の共有範囲は必要最低限にするなどプライバシー保護の観点にも気を付ける必要があります。

  • 配慮の申し出の内容などを把握する。
  • 配慮の内容や取りうる選択肢を検討する。
  • 配慮の内容が確定したら、フリーランスに速やかに伝える。
  • 十分に検討しても業務の性質等によってやむを得ず配慮できない場合はその旨を伝える。

なお、特定業務委託事業者には、可能な範囲で対応を講じることが求められています。
申し出の内容を必ず実現することまで求められているわけではありません。

3.ハラスメント対策についての体制整備など

セクハラ、マタハラ、パワハラを行ってはいけないことはもちろん、これらの相談に応じる体制の整備などをしなければいけません。
相談を行ったフリーランスに対して契約の解除などの不利益な取扱いをしてもいけません。

これらは社内の労働者に対して啓発している社内体制やツールを活用するのも良さそうです。

4.契約の解除についてのルール

特定業務委託事業者は、6カ月以上の期間行う業務委託または契約更新で6カ月以上の期間継続して行うこととなる業務委託をしているフリーランスの契約を解除する場合や、契約期間満了後に更新をしない場合、少なくとも30日前までにその予告をしなければいけません。

両者間の合意による契約解除の場合はこの法律に該当しませんが、その合意がフリーランスの自由な意思によるものなのかは慎重に判断する必要があります。

また、フリーランスが契約解除を予告された日から契約が満了する日までの間に、契約解除の理由を開示するよう求めてきた場合は、書面やメール等で理由を開示しなければいけません。ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合などは例外となります。

事前予告の例外事由と理由開示の例外事由は次のとおりです。

【事前予告の例外事由】

  • 災害やその他やむを得ない事由で予告することが困難な場合
  • フリーランスに責めに帰すべき事由があり、直ちに契約を解除する必要がある場合
  • 再委託の際、元委託者からの契約の全部又は一部の解除等によって、フリーランスの業務の大部分が不要となってしまう等、直ちに契約を解除せざるを得ない場合
  • 契約の更新によって継続して業務委託を行う場合等で、業務委託の期間が30日間以下の短期間である一の契約(個別契約)を解除しようとする場合
  • 基本契約が締結されている場合で、フリーランスの事情で相当な期間、個別の契約が締結されていない場合

【理由開示の例外事由】

  • 第三者の利益を害するおそれがある場合
  • 他の法令に違反することとなる場合

【労務管理】9月は「職場の健康診断実施強化月間」です

厚生労働省では、9月を「職場の健康診断実施強化月間」と位置づけ、健康診断及び事後措置の実施の徹底、医療保険者との連携を呼びかけています。

職場での健康診断

事業者は、労働安全衛生法第66条に基づいて、労働者に医師による健康診断を実施しなければいけません。
また、労働者も、健康診断を受けなければいけないことが定められています。

労働安全衛生法
第六十六条(健康診断)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

事業者に実施が義務づけられている健康診断の種類

事業者が行わなければいけない健康診断には、次のようなものがあります。

雇入時の健康診断          
(労働安全衛生規則第43条)
常時使用する労働者を雇い入れるときに実施する。
※対象労働者が医師の健康診断を受けてから3か月以内の場合の例外あり。
定期健康診断
(労働安全衛生規則第44条)
常時使用する労働者のうち、特定業務従事者ではない者に対して実施する。
1年以内ごとに1回。
特定業務従事者の健康診断
(労働安全衛生規則第45条)
深夜業を含む業務や、有害放射線にさらされる業務など、労働安全衛生規則で定めている特定の業務に常時従事する労働者(特定業務従事者)に対して実施する。
その業務への配置替えの時と、6月以内ごとに1回。
海外派遣労働者の健康診断
(労働安全衛生規則第45条の2)
海外に6ヶ月以上派遣する労働者に対して実施する。
海外に6月以上派遣する時と、帰国後に国内業務に就かせる時。
給食従業員の検便
(労働安全衛生規則第47条)
事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者に対して実施する。
雇入れの時と、配置替えの時。

健康診断をした後の措置

令和4年労働安全衛生調査(実態調査)によると、一般健康診断を実施した事業所は全体で90.1%で、そのうち所見のあった労働者がいるのは全体で69.8%となっており、約7割の労働者に所見が見られていることがわかります。

従業員数30人未満の事業所では一般健康診断を実施している割合が9割を下回っており、従業員数が少ないほど、一般健康診断の実施率が低い傾向がわかります。

また、所見のあった労働者がいる割合は、従業員数が多い事業所の方が多いです。

所見のあった労働者に対して、措置を講じた事業所は全体で90.8%となっています。そのうち、医師または歯科医師に意見を聴いた割合が最も多く45.3%となっています。

健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針

厚生労働省は、健康診断の結果に基づく就業上の措置が適切かつ有効に実施されるため、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を定めています。

健康診断の実施手順を抜粋すると、次のような流れとなります。

(1)健康診断の実施
事業者は、健康診断の受診率が向上するように、労働者に対して周知や指導に努めます。
(2)二次健康診断の受診勧奨等
事業者は、健康診断の結果、二次健康診断の対象となる労働者を把握して、対象者に受診を勧奨します。
また、二次健康診断の結果を事業者に提出するように働きかけます。
※二次健康診断の対象となる労働者とは
一次健康診断の結果、「血圧検査」「血中脂質検査」「血糖検査」「腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定」す   べての検査項目について『異常の所見』がでている場合。
または、産業医等が二次健康診断を必要と認めたとき。
(3)健康診断の結果についての医師等からの意見の聴取
健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者について、医師等の意見を聴く必要があります。
意見を聴く医師等は、産業医や、産業医の選任義務がない事業場では地域産業保健センターの活用を図ること等が適当です。
事業者は、適切に意見を聴くため、必要な情報提供をします。就業上の措置に関し、その必要性の有無、講ずべき措置の内容等に係る意見を医師等から聴きます。
(4)就業上の措置の決定等
医師等の意見に基づいて、就業区分に応じた就業上の措置を決定する場合には、あらかじめ対象となる労働者の意見を聴き、十分な話合いを通じて、その労働者の了解が得られるよう努めます。
産業医の選任義務のある事業場では、必要に応じて、産業医の同席の下に労働者の意見を聴くことが適当です。

その他、健康診断について、次のことを留意する必要があります。

  • 健康情報の保護に留意して、適正に取扱いをする。
  • 健康診断結果の記録は保存する。
  • 健康診断結果は、異常の所見の有無にかかわらず、遅滞なく労働者に通知する。
  • 一般健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対して、医師又は保健師による保健指導を受けさせるよう努める。
  • 再検査又は精密検査を行う必要のある労働者に対して、受診を勧奨し、意見を聴く医師等に検査の結果を提出するよう働きかけることが適当。
  • 再検査又は精密検査は、一律には事業者にその実施が義務付けられていないが、有機溶剤予防規則等で特殊健康診断として規定されているものについては、事業者にその実施が義務付けられているので注意する。

【労務管理】裁量労働制とは

労働基準法では、使用者に対して、労働者に原則として1日8時間・週40時間を超えて労働させてはならないと定めています。

しかし、労働時間制を柔軟にするための特別な制度もあり、昭和62年の労働基準法改正(昭和63年4月施行)によって設けられた「裁量労働制」はそのひとつです。

裁量労働制は、『労働の量(実労働時間の長さ)』ではなく『労働の質(成果)』による報酬の支払いを可能にするものとも言われています。

裁量労働制により、効率的な働き方による生産性の向上や、柔軟で多様な働き方につながるといった労使双方にとってのメリットが期待されますが、一方で、正しく運用されないと長時間労働や労働者の心身に負担をかけやすくなってしまう懸念があります。

似たような制度で高度プロフェッショナル制度というものがありますが、高度プロフェッショナル制度は年収1,075万円以上という年収要件がある一方、裁量労働制に年収要件はありません。

裁量労働制の種類

昭和62年の労働基準法改正によって設けられた裁量労働制は、その後何度か法改正を経て、現在は「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2つがあります。

専門業務型裁量労働制

対象労働者専門性の高い業務として定められた次の20業務に従事する労働者
1 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
2 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析又は設計の業務
3 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材若しくは編集の業務
4 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
7 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
8 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
9 ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
11 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
13 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
14 公認会計士の業務
15 弁護士の業務
16 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
17 不動産鑑定士の業務
18 弁理士の業務
19 税理士の業務
20 中小企業診断士の業務
労働時間労使協定で定めた時間を労働したものとみなす(=みなし労働時間)
導入の流れ①次の必要事項等を定めて労使協定を結び、労働基準監督署長に届出する。
【労使協定の内容】
・対象とする業務
・1日の労働時間としてみなす労働時間
・対象業務の遂行手段等について、使用者が具体的な指示をしないこと
・健康・福祉確保措置
・苦情処理措置
・制度の適用に労働者本人の同意を得なければいけないこと
・制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと
・制度の適用に関する同意の撤回の手続き など
②必要に応じて就業規則等の整備、届出。
③労働者本人の同意を得る。同意の取り方について具体的な手続を労使協定で定めることが適当。
④制度を実施する。

また、労働新聞社の報道によると、労働基準監督署の窓口において、『対象業務に付随する補助的業務のみに従事している場合』は要件を満たさないものとして労使協定届を不受理とし、指導文書を交付する対応がとられているようです。

企画業務型裁量労働制

対象労働者事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務のうち、以下の4つの要件すべてを満たす業務を行う労働者
・業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること(例えば対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど)
・企画、立案、調査及び分析の業務であること
・業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること
・業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
労働時間労使委員会の決議であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす(=みなし労働時間)
導入の流れ①「労使委員会」を設置する
②労使委員会で決議する
【決議しなければならない事項】
・制度の対象とする業務
・対象労働者の範囲
・1日の労働時間としてみなす時間
・健康・福祉確保措置
・苦情処理措置
・制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと
・制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと
・制度の適用に関する同意の撤回の手続
・対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと など
③必要に応じて就業規則等の整備、届出。
④労働者本人の同意を得る。同意の取り方について労使委員会で決議することが適当。
⑤制度を実施する。
⓺決議の有効期限の始期から起算して初回は6箇月以内に1回、その後1年以内ごとに1回、所轄労働基準監督署へ定期報告を行う。

裁量労働制を適用されている労働者の傾向

令和3年に公表された「裁量労働制実態調査」によると、 裁量労働制を適用されている労働者には次のような傾向がみられます。
(参考 国立国会図書館 調査と情報―ISSUE BRIEF― No. 1189(2022. 3.31) 裁量労働制をめぐる課題

  • 裁量労働制を適用されている労働者の方がそうでない労働者よりも「1日の平均労働時間数」が21分長く、「労働時間が週60時間以上」の割合や、「深夜に仕事をすることがある」割合も高い
  • 1日の平均睡眠時間は、裁量労働制を適用されている労働者とそうでない労働者でほぼ同じ
  • 健康状態については、裁量労働制を適用されている労働者の方がそうでない労働者と比べて「健康状態がよい」と答える傾向がある
  • 裁量労働制を適用されている労働者の約4割が自身に適用されているみなし労働時間を把握していない

【労務管理】休職制度とは

休職制度は、労働基準法で定められたものではなく、会社が独自で定める制度です。

会社が独自に定める制度なので、内容はそれぞれですが、一般的に「労働者が業務外の理由で一時的に労働ができなくなった場合、すぐに解雇せず、会社が定めた期間、在職扱いとする」ケースが多いと思います。

長らく日本では終身雇用制度が定着していたので、病気やケガなどで一時的に働けない従業員の雇用を守るために利用されてきた制度と思います。


近年では、リスキリングなど能力開発のための休職制度が設けられている会社もあるようです。

少し前の調査ですが、独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅱ)-」(2004年11月22日~12月10日実施)によると、

何らかの休職制度のある企業(「病気休職」「自己啓発休職」「起訴休職」「事故欠勤休職」「出向休職」「その他(専従休職等)」のいずれかを選択した企業。以下同じ。)の割合は、69.3%となっており、休職は法律上の制度ではないものの、多くの会社で取り入れられている制度だと言えます。

従業員を一定期間休職させる制度や慣行の状況(複数回答、%)

  • 「私傷病による休職(病気休職)」69.1%
  • 「自己都合による長期欠勤のための休職(事故欠勤休職)」37.4%
  • 「刑事事件で起訴されて就業ができないときの休職(起訴休職)」が20.1%
  • 「留学など能力開発のための休職(自己啓発休職)」が12.5%
  • 「従業員の他社への出向期間中になされる休職(出向休職)」7.2%
  • 「特にない」28.7%

モデル就業規則による休職規定

厚生労働省労働基準局監督課が出しているモデル就業規則(令和5年7月版)では、休職について次のように書かれています。(※読みやすいように空欄を●に書き換えています)

(休職)
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
① 業務外の傷病による欠勤が●か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき  ● 年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき  必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

【第9条  休職】

1 休職とは、業務外での疾病等主に労働者側の個人的事情により相当長期間にわたり就労を期待し得ない場合に、労働者としての身分を保有したまま一定期間就労義務を免除する特別な扱いをいいます。なお、本条第1項第2号の「特別な事情」には、公職への就任や刑事事件で起訴された場合等が当たります。

2 休職期間中に休職事由がなくなった場合は、当然に休職が解除され復職となります。

3 休職の定義、休職期間の制限、復職等については、労基法に定めはありません。

モデル就業規則(令和5年7月版)厚生労働省労働基準局監督課

メンタルヘルス不調による休職

厚生労働省の患者調査によると、精神疾患を有する総患者数は、2002年から2017年までの15年間で1.6倍も増加しているようです。
職場でも従業員のメンタルヘルス不調に対応する場面は増えていることと思います。

鬱病などの療養のために休職制度を使う場面において、一般社団法人日本産業保健法学会が公表している「産業保健職の現場課題に応える」Q&Aが参考になるのでご紹介します。

Q1
 適応障害やうつ病等の精神疾患のために休職している従業員が、休職期間中に趣味の活動(音楽活動や旅行等)をしていた場合、療養専念義務に違反し、会社から注意指導や懲戒処分の対象となり得るでしょうか。

A1
総論
 休職期間中に趣味の活動をしていることをもって直ちに懲戒処分を行うことは適当でないことが多いと考えられますが、医療者の判断に従わせること、それに基づき、会社秩序の観点で注意指導を行うことは可能です。
 そのためにも、先ず就業規則上、療養専念義務、必要な場合の主治医への意見聴取、指定医等への受診、逸脱行動の可否を会社の許可制としておくことが重要です。

「産業保健職の現場課題に応える」Q&A 一般社団法人日本産業保健法学会

精神疾患での病気休業中、趣味の活動をしているのを同僚から見つかってしまい、波紋を呼ぶことがあるようです。
ただ、精神疾患での療養には≪趣味の活動が精神衛生上良い方向に働いて療養につながる場合≫があり、一概に療養遷延義務違反とはいえない場面があります。

趣味の活動が療養に繋がるのかどうか、その活動が療養するうえで良くないことなのかの判断は、労務担当のみですることは困難ですから、対応としては、
・会社側が休職者の同意を得た上で、主治医に照会する
・休職者の病状、活動制限等の指導内容及び趣味的活動による療養への影響等について確認する
ことが基本となるようです。

一般社団法人日本産業保健法学会では、就業規則や休職に入る際に手渡す書類のなかに、
「休業中は療養に専念し、回復した際の復職を円滑に進めるためにも、無用の誤解を招くような言動を行わないよう留意して下さい。逸脱行動をとる場合には、医師の許可を得るとともに、会社の許可を得てください」
といった一文を入れておくことを提唱しています。

【労務管理】労基調査・ソフトウェア業界

労働時間の管理や長時間労働について、東京で調査が大々的に行われているようです

7月にソフトウェア業の顧問先のお客様に調査が入りました。いわゆる定期調査です。
問題は全くないお客様ですので、調査については無事終わったのですが、監督官から言われたのが、
「東京の労基では全般的に、ソフトウェア業の会社を調査をしている」とのことでした。
私どもの事務所でも、東京に、ソフトウェア業の顧問先のお客様が特に多いので、問題ないか確認する
必要があります。
ポイントは、
①労働時間を従業員の自己申告制にしている場合、「サービス残業」になっていないか
②長時間労働になっていないか、なっている場合の対応(労働時間の削減、面談の実施など)
長年、労基から言われ続けていることではあるのですが、改めて、このようなことを調査されているようです。
従業員さん自身が、「労働時間とは」「長時間労働とは」「健康に留意した働き方とは」を理解し、
認識を深めるように会社側が方策を実施していく必要があると思われます。

 

【労務管理】副業と社会保険

副業の推進

政府は、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日)において、「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図る」としており、今後、副業をする人は増える傾向にあると思います。

一方で、平成28年10月から短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大が実施されており、フルタイムでない働き方をする場合にも、企業などで働く方が厚生年金保険や健康保険といった「社会保険」に加入するケースが広がってきています。

そのため、今後、「主たる勤務先」と「副業先」どちらでも社会保険に加入しなければいけないケースは増えてくると思います。

パートタイマー・アルバイト等の方が社会保険に加入するケース

パートタイマー・アルバイト等が、事業所と常用的使用関係にある場合、次の働き方をしていると社会保険に加入するようになります。

  1. 1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上の場合
  2. 「特定適用事業所」「任意特定適用事業所」または「国・地方公共団体に属する事業所」に勤務していて、以下のすべてに該当する場合
    ・週の所定労働時間が20時間以上あること
    ・賃金の月額が8.8万円以上であること
    ・学生でないこと

特定適用事業所とは

1年のうち6月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が101人以上※となることが見込まれる企業等のこと。  ※令和6年10月からは厚生年金保険の被保険者数が51人以上

ダブルワークでどちらの勤務先でも社会保険に加入するケース

ダブルワークでどちらの勤務先でも社会保険に加入するようになるケースを考えてみます。

① 通常の労働者の4分の3以上

事業所によって「通常の労働者」の時間は違いますが、仮に「通常の労働者」が1日8時間、週5日勤務とすると、ダブルワークでどちらの勤務先でも社会保険に加入するのは、次のような働き方が考えられます。

8H×週5日×4分の3=週30時間

(例)
主たる勤務先 1日6H×週5日(週30時間)
副業先    1日6H×週5日 (週30時間)  

昼も夜もフルタイムに近い働き方をする方や、複数事業所で常勤取締役をするなどが考えられますが、週1日も休みなく働いたり、1日12Hを恒常的に働くようになるので、あまり多くの方は該当しないものと思います。

② 特定適用事業所で週20時間以上

特定事業所で週20時間の勤務をしている場合、仮に1日4時間、週5日勤務とすると次のような働き方が考えられます。

(例)
主たる勤務先 1日4H×週5日 (週20時間)
副業先    1日4H×週5日 (週20時間)

午前と午後で勤務先を分けて働いている場合などが考えられます。
賃金の月額が8.8万円以上であること、学生でないこと、も満たす必要がありますが、最低賃金も上がってきているので、月額要件は満たす場合が多いと考えられます。


副業が活発になると、このような働き方をする方が増えることも考えられるのではないでしょうか。


また、主たる勤務先が①で、副業先が②、などのケースも考えられると思います。

複数の事業所で社会保険に加入するようになったときの手続き

「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を届出し、主たる事業所を選択して管轄する年金事務所または保険者等を決定します。

保険料

社会保険料の標準報酬月額は、「それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額」で決定されます。

さらに、決定された標準報酬月額の保険料額を、「それぞれの事業所で受ける報酬月額に基づき按分」して、保険料が決定され、それぞれの事業所へ通知されることとなります。

健康保険証

健康保険証は、選択した事業所のみで健康保険証が発行されます。

報酬に変更があったとき(月額変更)

「各事業所について随時改定の要件に該当するかどうか」で判断することになります。

それぞれの事業所で固定的賃金が変動し、2等級以上の差が生じていれば、月額変更の届出をすることになります。
あくまで、それぞれの事業所で該当するか否かを確認するので、届出にあたり、他方の事業所の報酬を気にする必要はありません。
ひとつの事業所で月変に該当した場合には、合算して2等級以上の差が生じていない場合でも随時改定が必要になります。

【労務管理】歩合給の残業代計算

時間外労働をしたときの割増賃金

労働者が法定労働時間を超えて働いた場合、労働基準法で定める割増賃金を支払わなければいけません。

月給、時給、歩合など賃金形態に関わらず、時給単価に対して次の割増率を支払う必要があります。

割増賃金の種類と割増率

名称内容割増率
時間外手当
(いわゆる残業代)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき25%以上
※1カ月60時間を超えたときは50%以上
休日手当法定休日(週1日)に勤務させたとき35%以上
深夜手当22時から朝5時までの間に勤務させたとき25%以上

歩合給制の残業代

歩合給制は「出来高払制」や「請負給制」ともいわれるもので、

「売上に対して〇%」

「成果物1件に対して〇円」

といった一定の“成果”に対して定められた金額を支払う賃金制度です。

歩合給制であっても法定労働時間を超えて労働した場合は、その部分について割増賃金を支払う必要があります。

歩合給制の場合、時間外の計算方法は労働基準法施行規則で次のように定められています。

歩合給 ÷ その月のトータルの労働時間数(所定労働時間数+時間外数)=割増基礎単価

割増基礎単価×0.25×時間外数=割増賃金額  ※休日手当の場合は×0.35

労働基準法施行規則 
第十九条 一~五 (略)
六  出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締 切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

昭和二十二年厚生省令第二十三号 労働基準法施行規則

個別あっせんの事例

中央労働委員会のHPで、歩合給に関する事例と解説が掲載されていました。
※中央労働委員会=労働組合法に基づいて設置された国の機関で、あっせん・調停・仲裁など労働争議の調整などを行っているところ

争点は次の2点です。

  1. 委任契約だが、実態としては労働者なのか
  2. 歩合給の中に残業代は支払われているのか

1については、当事件においては実態として労働基準法上の労働者性があるということで話が進められました。
残業代計算の内容とは少しずれますが、労働者性を判断する解説がわかりやすいので引用でご紹介します。

(読みやすいよう任意で改行しています)

労働者か否かは、契約の形式ではなく労働関係の実態で判断する

゛証券会社や保険会社の外務員、カスタマー・エンジニア、芸能員、在宅勤務者(速記、ワープロなど)等々の契約の中には「雇用」ではなく、「委任」または「請負」契約の形式がとられ、そこでは、報酬は少額の保障部分があるほかは成績に比例して支払われ(歩合制、出来高払)、労働時間や労働場所についての拘束が少なく、就業規則の適用が排除され、労働保険にも入られない、という取り扱いがなされることが少なくない。

また、建設業における一人親方の職人、自己所有のトラック持込みで特定企業の運送業務に従事する傭車運転手、フランチャイズ店の店長なども個人事業主として「請負」または「委任」契約の取扱いを受けることが多いが、
特定企業のために専属的に労働力を提供する実質を有する場合には、「労働者」か否かが問題となる。

このような請負・委任契約による労務供給者が「労働者」か否かは、契約の形式(文言)によって決められるのではなく、労働関係の実態において事業に「使用され」かつ賃金を支払われている労働関係(労働契約関係)と認められれば、「労働者」といえる。 

(中略)
判断要素としては、昭和60年の労働省労働基準法研究会報告が、
①仕事の依頼への諾否の自由、
②業務遂行上の指揮監督、
③時間的・場所的拘束性、
④代替性、
⑤報酬の算定・支払い方法を主要な判断要素とし、
また、
①機械・器具の負担、報酬額等に現れた事業者性、
②専属性等
を補足的な判断要素として判断することを提唱し、以後、これらの要素が用いられている。”

引用元:[1] 労働基準法上の労働者性、歩合給の場合の割増賃金

1において労働者であることが前提となったため、「2.歩合給の中に残業代は支払われているのか」 については歩合給の割増計算に則って支払う方向であっせんを進めて話がまとまったようです。

通常の労働時間にあたる部分と割増賃金にあたる部分を分けていない場合、割増賃金が支払われたとは言えない

また、歩合給の残業代の支払いについて、最高裁判例の紹介がされていたので、こちらも引用でご紹介します。

゛タクシー会社の乗務員に支払われる歩合給に関し、
時間外・深夜労働が行われたとしても金額が増加せず、また、歩合給のうちで
通常の労働時間にあたる部分と
時間外・深夜の割増賃金にあたる部分とを判別することができない場合には、
当該歩合給の支給により時間外・深夜労働の割増賃金が支払われたものとすることはできず、
使用者は割増賃金規定に従って計算した割増賃金を別途支払う義務を負う、としたものがある
(高知観光事件-最二小判平6・6・13労判653号12頁、徳島南海タクシー事件-最三小決平11・12・13労判775号14頁)。”

引用元:[1] 労働基準法上の労働者性、歩合給の場合の割増賃金

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