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【労務管理】標準報酬月額の決まり方と注意点


標準報酬月額

標準報酬月額は、健康保険厚生年金保険保険料や年金給付額等を算出する基礎として、事務処理の正確化と簡略化を図るために設けられているものです。

国保ではなく、勤め先で社会保険に加入している方は、皆さんに標準報酬月額が決められており、それに基づいて月々の保険料が給与から控除されます。

健康保険料率は、加入している健保組合や都道府県ごとに違います。

標準報酬月額の上限と下限

健康保険と厚生年金保険では、標準報酬月額の上限と下限の等級が異なっています。

  • 厚生年金は32等級。標準報酬月額の上限(650,000円)、下限(88,000円)。
  • 健康保険は50等級。標準報酬月額の上限(1,390,000円)、下限(58,000円)。
画像は協会けんぽ宮城県の場合。協会けんぽHPから引用。

厚生年金の標準報酬月額の上限の決まり方

もともと厚生年金の上限の決め方にはっきりとした基準はなかったようですが

  • 高所得だった人に対する年金額があまりにも高くなりすぎないようにする
  • 低所得であった人にも一定以上の給付を確保する

を目的に、平成元年改正以後は、上限額が被保険者全体の平均標準報酬月額のおおむね2倍となるように設定する考え方となり、平成16年に法定化されました。

標準報酬月額の上限に該当する被保険者の割合は、昭和60年以降は6~7%で推移しています。

健康保険制度における標準報酬月額の上限の決まり方

健康保険料率については、保険給付費用の予算額等に照らして、おおむね5年を通じて財政運営の健全性を保てるように決められています。
上限額は、最高等級に該当する被保険者の全被保険者に占める割合が1.5%を超えてその状態が継続すると認められる場合に、一定のルールで政令で等級を追加できることになっています。

標準報酬月額が決定されるタイミング

標準報酬月額は、次のタイミングで決定されます。

資格取得時勤務先で社会保険に初めて加入したとき
定時決定毎年4月~6月に支払われる給与の平均額
随時改定昇給や降給等で固定的賃金に変動があって、変動月から3か月間の報酬の平均額が2等級以上の変更となったとき
※支払い基礎日数等の細かい要件もありますが、ここでは記載を省きます。

ここで、厚生年金と健康保険で標準報酬月額の上限と下限が異なることで、随時改定の手続きにおいて注意が必要になることがあります。

標準報酬月額等級表の上限または下限にかかる随時改定の注意点

標準報酬月額等級表の上限または下限にわたる等級変更の場合は、2等級以上の変更がなくても随時改定の対象となります。

昇給の場合

健康保険
  • 従前の標準報酬が1等級・58,000円で報酬月額が53,000円未満の場合報酬の平均額が63,000円以上で、改定後、2等級・68,000円になります。
  • 従前の標準報酬が49等級・1,330,000円の場合報酬の平均額が1,415,000円以上で、改定後、50等級・1,390,000円になります。
厚生年金保険
  • 従前の標準報酬が1等級・88,000円で報酬月額が83,000円未満の場合報酬の平均額が93,000円以上で、改定後、2等級・98,000円になります。
  • 従前の標準報酬が31等級・620,000円の場合報酬の平均額が665,000円以上で、改定後、32等級・650,000円になります。

降給の場合

健康保険
  • 従前の標準報酬が2等級・68,000円の場合報酬の平均額が53,000円未満で、改定後、1等級・58,000円になります。
  • 従前の標準報酬が50等級・1,390,000円で報酬月額が1,415,000円以上の場合、報酬の平均額が1,355,000円未満で、改定後、49等級・1,330,000円になります。
厚生年金保険
  • 従前の標準報酬が2等級・98,000円の場合、報酬の平均額が83,000円未満で、改定後、1等級・88,000円になります。
  • 従前の標準報酬が32等級・650,000円で報酬月額が665,000円以上の場合、報酬の平均額が635,000円未満で、改定後、31等級・620,000円になります。

【派遣元責任者講習の有効期限について】


【うっかり受講を忘れない為に】

派遣元責任者講習の有効期限は3年間です。同じ方が派遣元責任者を続けるのならば、期限切れになる前に講習を受ける必要があります。
派遣事業を運営する上で、派遣元責任者は必ず派遣元会社に配置している必要があります。3年に一度の事なのでうっかり有効期限を過ぎている事や、派遣元責任者の急な退職、病気による休職など思いもよらず派遣元責任者が不在状態になる事がございます。
許可制の派遣業では派遣元責任者の不在は許されない事ですので、注意が必要です。
期限切れ、不在状態を予防するために複数の派遣元責任者を選任し、講習日時をづらして受講するなど、空白期間が生じないようにするのも一つの対策です。

【労務管理】労働者と使用者とは


「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」が労働基準監督署に設置されます

2024年11月のフリーランス新法の施行に合わせて、「自分はフリーランスとして働いているけど、働き方が労働者なんじゃないかな・・?」と思っているフリーランスの方に向けた相談窓口が全国の労働基準監督署に設置されます。

※ここでのフリーランスは、業務委託を受ける事業者のことを指します。

フリーランスとして働く人の中には、実際の働き方は労働基準法上の労働者なのに、契約上は自営業者として扱われて、法律に基づく正しい保護が受けられていないといった問題が指摘されています。

労働基準法上の「労働者」にあたるかどうかは、「業務委託」や「請負」などの契約の形式などにかかわらず、実際の働き方等をみて総合的に判断されます。

厚生労働省が出している働き方の自己診断チェックリスト(フリーランス向け)

労働基準法が適用される労働者とは

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働基準法上の労働者にあたるかの判断は、『使用従属性』が認められるかどうか等によって判断されます。

『使用従属性』とは、次の両方の基準をまとめて呼んだものです。

  1. 他人の指揮監督下で労働していること
  2. 報酬が指揮監督下にある労働の対価として支払われていること

「使用従属性」に関する判断基準

「指揮監督下の労働」であること
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由発注者から仕事を貰った時に、それを受けるかどうか等、自分で決められるか
業務遂行上の指揮監督仕事の内容や、やり方について、発注者から具体的に指示をされて指揮命令されているか
拘束性勤務場所と時間が発注者等から指定されて管理されているか
代替性(指揮監督関係を補強する要素)発注者から受けた仕事を、自分の代わりに誰かにやってもらったり、自分の判断で補助者を使うことが認められているか
報酬の労務対償性報酬のベースが、発注者等の指揮監督の下で行う作業時間等となっているか
「労働者性」の判断を補強する要素
事業者性仕事に必要な機械等は発注者とフリーランスのどちらが用意しているか。
フリーランスが機械等を所有していて発注された作業に当たっている場合などは、自らが事業者として働いている性質が強くなると考えられます。
専属性の程度他の発注者等の業務を行うことが制度上制約されたり、他の発注者等の業務を行うことが時間的に余裕がなく難しかったりする場合等は労働者性が強いと考えられます。
その他採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること 等

労働基準法が定める使用者とは

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

労働基準法で使用者とは、次のように定められています。

・ 事業主

法人そのもの、個人事業主

・ 事業の経営担当者

法人の代表者、役員等

・労働者に関する事項について、事業主のために行為をする者

労働条件の決定、業務命令の発出、具体的な指揮監督等を行うもの(上司の命令の伝達者にすぎない場合は除きます)

使用者は、事業主だけでなく、役員等も含まれ、労働者に指揮命令をして労働をさせ、労働の対価として報酬を支払います。

「松下プラズマディスプレイ事件」(最高裁判所第2小法廷 平成21年12月18日 判決)では、偽装請負いの状態で派遣されていた労働者は『注文者から直接具体的な指揮監督を受けて作業に従事していた』が、「雇用契約は注文者以外と結ばれていた」「注文者は採用に関与していない」「注文者が給与の支払い額を決定していたわけではない」等の事情で、注文者とその労働者の間に雇用関係が黙示的に成立していたとはいえない、としています。

労働の具体的な指揮監督をするだけでは、使用者性が認められないといえます。

【労務管理】フリーランス新法が2024年11月から施行されます


フリーランス新法とは

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」は、フリーランスの⽅が適正に取引ができ、安定して働ける環境を整備するため、フリーランスに業務委託を発注する事業者に対して義務付けを行う法律です。


内容としては、大きく「取引の適正化」「就業環境の整備」のふたつがあります。

この法律で対象になるフリーランスとは
・従業員を使用していない個人
・従業員を使用していない代表者だけの法人(一人親方や一人社長)
また、ここでの従業員は『週の所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(または派遣労働者)』を指します。そのため、事業を手伝っているのが同居親族のみの場合は、従業員を使用していないとみなされてフリーランスに該当します。

取引の適正化:発注事業者に義務付けられること

取引の適正化については、公正取引委員会と中小企業庁が所管し、調査、検査、勧告、命令ができ、命令に違反した場合等には罰金等となります。

フリーランスに業務委託を発注する事業者に義務付けられる内容は、発注事業者の属性に応じて異なります。
なお、消費者がフリーランスに業務委託を発注する場合や、事業者間取引であっても業務委託ではない売買取引の場合は、この法律の対象になりません。

業務委託事業者の場合

業務委託事業者とは、フリーランスに業務を委託する事業者で、法人、個人、従業員の有無を問いません。
そのため、フリーランスがフリーランスに業務を委託する場合も含まれます。

義務等の内容
  • 書面やメール等で取引条件を明示すること
明示すべき事項
  1. 業務委託事業者と受託者の名称等
  2. 業務委託をした日
  3. 給付の内容
  4. 給付や役務の提供を受領する期日・場所
  5. 給付の内容を検査する場合は検査を完了する期日
  6. 報酬の額と支払期日
  7. 現金以外で支払う場合は、その方法で支払う額と支払い方法に関すること

特定業務委託事業者の場合

特定業務委託事業者とは、フリーランスに業務を委託する事業者で、「従業員を使用する個人」「従業員を使用する法人」「二以上の役員がいる法人」のことを指します。
資本金の額や企業の規模については要件がありません。

義務等の内容
  • 書面やメール等で取引条件を明示すること
  • 報酬を支払う期日等のルール
報酬の支払期日等のルール
  1. 報酬の支払い日は、給付などを受領した日から60日内かつできるだけ短い期間内で定める
  2. フリーランスに業務の全部または一部を再委託をする場合は、「再委託である旨」「元委託者の名称等」「元委託業務の支払期日」を明示して、元委託の支払期日から起算して30日以内かつできるだけ短い期日で報酬支払い日を定める
  3. 2の場合で元委託者から前払いを受けた場合、フリーランスの業務に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければいけない

1.2が定められない場合は、それぞれ給付を受領した日から60日、30日を経過する日が支払期日とみなされます。

また、支払期日は「〇月〇日まで」「納品後〇日以内」などの定め方は支払期日を定めているとは認められません。
「〇月〇日」「毎月〇日締切、翌月△日支払い」などのように定める必要があります。

1か月以上の業務委託をしている特定業務委託事業者の場合

特定業務委託事業者のうち、フリーランスに1か月以上の業務委託をしている事業者のことを指します。

義務等の内容
  • 書面やメール等で取引条件を明示すること
  • 報酬を支払う期日等のルール
  • 発注事業者としての7つの禁止行為のルール
7つの禁止行為
  1. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、発注物を受け取り拒否することの禁止
  2. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、発注時に決めていた報酬を発注後に減額することの禁止
  3. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、返品することの禁止
  4. 極端に低い報酬にすることの禁止
  5. 発注物の品質を維持する目的などきちんとした理由がないのに、発注者が強制的にフリーランスに物を購入させたりサービスを利用させたりすることの禁止
  6. 発注者のために金銭や役務などを不当に提供させてフリーランスの利益を害することの禁止(協賛金の要請など)
  7. フリーランスに責められるべき理由や落ち度、過失がないのに、発注を取り消ししたり内容を変更させたり、受領した後に発注側が作業に必要な費用を負担せずにやり直しや追加作業をさせることの禁止

就業環境の整備:発注事業者に義務付けられること

就業環境の整備については、厚生労働省が所管し、検査、勧告、命令ができ、命令に違反した場合等には罰金等となります。

就業環境整備が義務付けられるのは特定業務委託事業者で、4つのルールが義務付けられます。

1.募集情報の的確な表示について

広告等で広くフリーランスの業務委託を募集する場合、虚偽の募集内容や誤解を生じさせる募集内容にしてはいけません。
なお、特定の1人に対して業務委託を打診する場合は、既に契約交渉段階に入っていると想定されるので、この内容に含まれません。2人以上の複数人を相手に打診する場合は対象になります。

的確表示の対象となる募集情報事項
業務の内容仕事の内容、必要な能力や資格、検収の基準、不良品の取扱いに関する定め、成果物の知的財産権の許諾・譲渡の範囲、違約金に関する定めなど
就業の場所、時間及び期間に関する事項仕事をする場所、時間、納期、期間など
報酬に関する事項支払期日、支払方法、諸経費、知的財産権の譲渡・許諾の対価など
契約の解除に関する事項契約の解除事由、中途解約の際の費用・違約金に関する定めなど
特定受託事業者の募集を行う者に関する事項名称や業績など

2.妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮

6カ月以上の期間行う業務委託、または契約更新で6カ月以上の期間継続して行うこととなる業務委託をするフリーランスから申出があった場合、特定業務委託事業者は個別に必要な配慮をしなければいけません。

配慮の申出ができるフリーランスは、現に育児介護等と両立しつつ業務を行うもの、またはそういった具体的な予定があるものです。

フリーランスから申出があったのに、それを無視するといったことは法違反となります。
また、申し出の内容等にはプライバシーに関する情報も含まれるので、情報の共有範囲は必要最低限にするなどプライバシー保護の観点にも気を付ける必要があります。

  • 配慮の申し出の内容などを把握する。
  • 配慮の内容や取りうる選択肢を検討する。
  • 配慮の内容が確定したら、フリーランスに速やかに伝える。
  • 十分に検討しても業務の性質等によってやむを得ず配慮できない場合はその旨を伝える。

なお、特定業務委託事業者には、可能な範囲で対応を講じることが求められています。
申し出の内容を必ず実現することまで求められているわけではありません。

3.ハラスメント対策についての体制整備など

セクハラ、マタハラ、パワハラを行ってはいけないことはもちろん、これらの相談に応じる体制の整備などをしなければいけません。
相談を行ったフリーランスに対して契約の解除などの不利益な取扱いをしてもいけません。

これらは社内の労働者に対して啓発している社内体制やツールを活用するのも良さそうです。

4.契約の解除についてのルール

特定業務委託事業者は、6カ月以上の期間行う業務委託または契約更新で6カ月以上の期間継続して行うこととなる業務委託をしているフリーランスの契約を解除する場合や、契約期間満了後に更新をしない場合、少なくとも30日前までにその予告をしなければいけません。

両者間の合意による契約解除の場合はこの法律に該当しませんが、その合意がフリーランスの自由な意思によるものなのかは慎重に判断する必要があります。

また、フリーランスが契約解除を予告された日から契約が満了する日までの間に、契約解除の理由を開示するよう求めてきた場合は、書面やメール等で理由を開示しなければいけません。ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合などは例外となります。

事前予告の例外事由と理由開示の例外事由は次のとおりです。

【事前予告の例外事由】

  • 災害やその他やむを得ない事由で予告することが困難な場合
  • フリーランスに責めに帰すべき事由があり、直ちに契約を解除する必要がある場合
  • 再委託の際、元委託者からの契約の全部又は一部の解除等によって、フリーランスの業務の大部分が不要となってしまう等、直ちに契約を解除せざるを得ない場合
  • 契約の更新によって継続して業務委託を行う場合等で、業務委託の期間が30日間以下の短期間である一の契約(個別契約)を解除しようとする場合
  • 基本契約が締結されている場合で、フリーランスの事情で相当な期間、個別の契約が締結されていない場合

【理由開示の例外事由】

  • 第三者の利益を害するおそれがある場合
  • 他の法令に違反することとなる場合

【令和6年10月から教育訓練給付金が拡充されます】


【資格学校やプログラミングスクールなど様々な学校でも利用可能】

令和6年10月から雇用保険制度内の教育訓練給付金の給付率が拡大となります。
特定一般教育訓練給付金の給付率が最大40%から50%へ。
専門実践教育訓練給付金の給付率が最大70%から80%へ。
教育訓練給付制度は、働く方々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図ることを目的として、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給されるものです。

教育訓練給付金は条件を満たした雇用保険被保険者、被保険者であった者が学校等に支払う受講料等を20%~最大80%までを支給する制度です。

現在、リ・スキリング(学びなおし)として、資格取得や他業種に活かす専門知識を学ぶ事が珍しくありません。
資格学校やプログラミングスクールなどでも対応している学校があります。労働者、会社側でもこの制度がある事を知らないという方も多いと思います。もし、今後資格取得などをお考えの方は自分の通う学校が給付金制度を利用できるか等、確認してみることをお勧めします。

【労務管理】9月は「職場の健康診断実施強化月間」です


厚生労働省では、9月を「職場の健康診断実施強化月間」と位置づけ、健康診断及び事後措置の実施の徹底、医療保険者との連携を呼びかけています。

職場での健康診断

事業者は、労働安全衛生法第66条に基づいて、労働者に医師による健康診断を実施しなければいけません。
また、労働者も、健康診断を受けなければいけないことが定められています。

労働安全衛生法
第六十六条(健康診断)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

事業者に実施が義務づけられている健康診断の種類

事業者が行わなければいけない健康診断には、次のようなものがあります。

雇入時の健康診断          
(労働安全衛生規則第43条)
常時使用する労働者を雇い入れるときに実施する。
※対象労働者が医師の健康診断を受けてから3か月以内の場合の例外あり。
定期健康診断
(労働安全衛生規則第44条)
常時使用する労働者のうち、特定業務従事者ではない者に対して実施する。
1年以内ごとに1回。
特定業務従事者の健康診断
(労働安全衛生規則第45条)
深夜業を含む業務や、有害放射線にさらされる業務など、労働安全衛生規則で定めている特定の業務に常時従事する労働者(特定業務従事者)に対して実施する。
その業務への配置替えの時と、6月以内ごとに1回。
海外派遣労働者の健康診断
(労働安全衛生規則第45条の2)
海外に6ヶ月以上派遣する労働者に対して実施する。
海外に6月以上派遣する時と、帰国後に国内業務に就かせる時。
給食従業員の検便
(労働安全衛生規則第47条)
事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者に対して実施する。
雇入れの時と、配置替えの時。

健康診断をした後の措置

令和4年労働安全衛生調査(実態調査)によると、一般健康診断を実施した事業所は全体で90.1%で、そのうち所見のあった労働者がいるのは全体で69.8%となっており、約7割の労働者に所見が見られていることがわかります。

従業員数30人未満の事業所では一般健康診断を実施している割合が9割を下回っており、従業員数が少ないほど、一般健康診断の実施率が低い傾向がわかります。

また、所見のあった労働者がいる割合は、従業員数が多い事業所の方が多いです。

所見のあった労働者に対して、措置を講じた事業所は全体で90.8%となっています。そのうち、医師または歯科医師に意見を聴いた割合が最も多く45.3%となっています。

健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針

厚生労働省は、健康診断の結果に基づく就業上の措置が適切かつ有効に実施されるため、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を定めています。

健康診断の実施手順を抜粋すると、次のような流れとなります。

(1)健康診断の実施
事業者は、健康診断の受診率が向上するように、労働者に対して周知や指導に努めます。
(2)二次健康診断の受診勧奨等
事業者は、健康診断の結果、二次健康診断の対象となる労働者を把握して、対象者に受診を勧奨します。
また、二次健康診断の結果を事業者に提出するように働きかけます。
※二次健康診断の対象となる労働者とは
一次健康診断の結果、「血圧検査」「血中脂質検査」「血糖検査」「腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定」す   べての検査項目について『異常の所見』がでている場合。
または、産業医等が二次健康診断を必要と認めたとき。
(3)健康診断の結果についての医師等からの意見の聴取
健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者について、医師等の意見を聴く必要があります。
意見を聴く医師等は、産業医や、産業医の選任義務がない事業場では地域産業保健センターの活用を図ること等が適当です。
事業者は、適切に意見を聴くため、必要な情報提供をします。就業上の措置に関し、その必要性の有無、講ずべき措置の内容等に係る意見を医師等から聴きます。
(4)就業上の措置の決定等
医師等の意見に基づいて、就業区分に応じた就業上の措置を決定する場合には、あらかじめ対象となる労働者の意見を聴き、十分な話合いを通じて、その労働者の了解が得られるよう努めます。
産業医の選任義務のある事業場では、必要に応じて、産業医の同席の下に労働者の意見を聴くことが適当です。

その他、健康診断について、次のことを留意する必要があります。

  • 健康情報の保護に留意して、適正に取扱いをする。
  • 健康診断結果の記録は保存する。
  • 健康診断結果は、異常の所見の有無にかかわらず、遅滞なく労働者に通知する。
  • 一般健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対して、医師又は保健師による保健指導を受けさせるよう努める。
  • 再検査又は精密検査を行う必要のある労働者に対して、受診を勧奨し、意見を聴く医師等に検査の結果を提出するよう働きかけることが適当。
  • 再検査又は精密検査は、一律には事業者にその実施が義務付けられていないが、有機溶剤予防規則等で特殊健康診断として規定されているものについては、事業者にその実施が義務付けられているので注意する。

【労務管理】裁量労働制とは


労働基準法では、使用者に対して、労働者に原則として1日8時間・週40時間を超えて労働させてはならないと定めています。

しかし、労働時間制を柔軟にするための特別な制度もあり、昭和62年の労働基準法改正(昭和63年4月施行)によって設けられた「裁量労働制」はそのひとつです。

裁量労働制は、『労働の量(実労働時間の長さ)』ではなく『労働の質(成果)』による報酬の支払いを可能にするものとも言われています。

裁量労働制により、効率的な働き方による生産性の向上や、柔軟で多様な働き方につながるといった労使双方にとってのメリットが期待されますが、一方で、正しく運用されないと長時間労働や労働者の心身に負担をかけやすくなってしまう懸念があります。

似たような制度で高度プロフェッショナル制度というものがありますが、高度プロフェッショナル制度は年収1,075万円以上という年収要件がある一方、裁量労働制に年収要件はありません。

裁量労働制の種類

昭和62年の労働基準法改正によって設けられた裁量労働制は、その後何度か法改正を経て、現在は「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2つがあります。

専門業務型裁量労働制

対象労働者専門性の高い業務として定められた次の20業務に従事する労働者
1 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
2 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析又は設計の業務
3 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材若しくは編集の業務
4 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
7 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
8 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
9 ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
11 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
13 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
14 公認会計士の業務
15 弁護士の業務
16 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
17 不動産鑑定士の業務
18 弁理士の業務
19 税理士の業務
20 中小企業診断士の業務
労働時間労使協定で定めた時間を労働したものとみなす(=みなし労働時間)
導入の流れ①次の必要事項等を定めて労使協定を結び、労働基準監督署長に届出する。
【労使協定の内容】
・対象とする業務
・1日の労働時間としてみなす労働時間
・対象業務の遂行手段等について、使用者が具体的な指示をしないこと
・健康・福祉確保措置
・苦情処理措置
・制度の適用に労働者本人の同意を得なければいけないこと
・制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと
・制度の適用に関する同意の撤回の手続き など
②必要に応じて就業規則等の整備、届出。
③労働者本人の同意を得る。同意の取り方について具体的な手続を労使協定で定めることが適当。
④制度を実施する。

また、労働新聞社の報道によると、労働基準監督署の窓口において、『対象業務に付随する補助的業務のみに従事している場合』は要件を満たさないものとして労使協定届を不受理とし、指導文書を交付する対応がとられているようです。

企画業務型裁量労働制

対象労働者事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務のうち、以下の4つの要件すべてを満たす業務を行う労働者
・業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること(例えば対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど)
・企画、立案、調査及び分析の業務であること
・業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること
・業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
労働時間労使委員会の決議であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす(=みなし労働時間)
導入の流れ①「労使委員会」を設置する
②労使委員会で決議する
【決議しなければならない事項】
・制度の対象とする業務
・対象労働者の範囲
・1日の労働時間としてみなす時間
・健康・福祉確保措置
・苦情処理措置
・制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと
・制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと
・制度の適用に関する同意の撤回の手続
・対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと など
③必要に応じて就業規則等の整備、届出。
④労働者本人の同意を得る。同意の取り方について労使委員会で決議することが適当。
⑤制度を実施する。
⓺決議の有効期限の始期から起算して初回は6箇月以内に1回、その後1年以内ごとに1回、所轄労働基準監督署へ定期報告を行う。

裁量労働制を適用されている労働者の傾向

令和3年に公表された「裁量労働制実態調査」によると、 裁量労働制を適用されている労働者には次のような傾向がみられます。
(参考 国立国会図書館 調査と情報―ISSUE BRIEF― No. 1189(2022. 3.31) 裁量労働制をめぐる課題

  • 裁量労働制を適用されている労働者の方がそうでない労働者よりも「1日の平均労働時間数」が21分長く、「労働時間が週60時間以上」の割合や、「深夜に仕事をすることがある」割合も高い
  • 1日の平均睡眠時間は、裁量労働制を適用されている労働者とそうでない労働者でほぼ同じ
  • 健康状態については、裁量労働制を適用されている労働者の方がそうでない労働者と比べて「健康状態がよい」と答える傾向がある
  • 裁量労働制を適用されている労働者の約4割が自身に適用されているみなし労働時間を把握していない

【令和7年度適用の労使協定、派遣一般労働者の賃金水準が発表されました】


【職業安定業務統計の職種が改定されています】

令和7年度の労使協定方式の派遣労働者の賃金額を決定する際に使用する
【同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額】が発表されました。
厚生労働省で発表された全文はこちらです。
令和6年度からの変更点や注意点では、通勤手当を時給に含んで支給する場合の1時間当たりの単価が
72円から73円に1円引き上げられた事、退職金を一般賃金・賞与等に乗じた割合は昨年度と同じ5%のままでした。

令和7年度で最も大きく変わったことは、【職業安定業務統計】の職業種類が改定された事です。
改定された理由は前回の改定時より10年以上が経過し、この間の産業構造、職業構造の変化等に伴い、
求人・求職者の職業認識との乖離が生じている分野もみられた事により改定となりました。

大・中・小分類共に職種が増え、特に小分類では71職種も増加しています。現代の職種の考え方により近い分類になった事で職種を選びやすくなった印象です。

令和6年度まで【職業安定業務統計】から職種を選択していた企業様は、令和7年度では再度、自社で派遣している業務がどの職種に一番適しているかを選択する必要があります。この際に実際に行われている職種ではなく、賃金額が下がることを目的として恣意的に職種や、中・大分類を選ぶことは禁止されています。

令和7年4月1日からの賃金額適用と少し先ではありますが、職業安定業務統計を利用の際は職種の再選択、
一般賃金額上昇による派遣先との派遣料金の交渉、労使協定作成などの準備を少しずつ進める必要があります。

【無許可派遣撲滅に向けた緊急対策が発表されました】


【派遣先事業所への対策が強化されます

滋賀労働局は令和5年8月、令和6年2月に無許可派遣で刑事告発を行い、極めて憂慮すべき事態とし、無許可事業者による労働者派遣を撲滅すべく、県内の派遣先事業所に対する自主点検の実施、事業主団体への要請等の緊急対策を実施すると発表がありました

対策内容としては                                            ①派遣先事業所に対する自主点検の実施。                                  ②派遣先事業主に対するオンラインセミナーの実施。
③事業主団体への緊急要請。 

の3つの対策を実施し、無許可派遣の撲滅を目指すとの事です。

無許可派遣の対策は全国的にも行われており、今後も派遣先事業社への注意喚起などより厳しく行われていくことと思われます。

派遣業務を行うには必ず厚生労働大臣の許可が必要です!

弊所では、派遣・職業紹介の新規許可申請代行を数多く行っています。新規許可取得やご相談などありましたらお気軽にお問合せください。

【労務管理】令和6年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大


現在、週20時間以上働く短時間労働者が厚生年金保険・健康保険(社会保険)の加入対象となるのは、『厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等』です。

令和6年10月から、この短時間労働者の加入要件がさらに拡大されて、『厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等』で働く短時間労働者は、社会保険に加入することが義務になります。

 

厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等とは

新たに短時間労働者が社会保険の加入対象となるのは、次の要件を満たす企業等です。

  • 12か月のうち6月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者の総数(※)が51人以上となることが見込まれること

※法人事業所の場合は、法人番号が同一である同一法人格に属するすべての適用事業所の被保険者の総数が51人以上である場合に該当します。

※総数には、短時間労働者や70歳以上で健康保険のみ加入している人は含みません。

※事業所の新規適用時などで過去の実績はないものの、厚生年金保険の被保険者の総数が50人を超える場合は、特定適用事業所該当届を届け出る必要があります。

 

短時間労働者が社会保険の加入対象となる企業等のことを「特定適用事業所」といいます。


特定適用事業所になった場合、使用される厚生年金保険の被保険者の総数が常時50人を超えなくなった場合であっても、原則として引き続き特定適用事業所であるものとして取り扱われます。

ただし、使用される被保険者の4分の3以上の同意を得たことを証する書類を添えて、特定適用事業所不該当届を届け出た場合は、対象の適用事業所は特定適用事業所に該当しなくなったものとして扱われることとなります。

短時間労働者が社会保険に加入対象になる要件

以下の条件すべて該当する短時間労働者が特定適用事業所に勤務する場合、加入対象となります。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 所定内賃金が月額8.8万円以上
  3. 2カ月を超える雇用の見込みがある
  4. 学生ではない

東京都の場合、2024年10月以降は最低賃金1,163円となる見込みですので、週20時間以上勤務する場合は「2.所定内賃金が月額8.8万円以上」は自然と満たすことになりそうです。

所定内賃金が月額 8.8 万円かの算定対象は、基本給及び諸手当で判断します。
ただし、次の①から④までの賃金は算入されません。
【算入されないもの】

  • 臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
  • 1月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)
  • 時間外労働に対して支払われる賃金、休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等)
  • 最低賃金において算入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当及び家族手当)

なお、健康保険の被扶養者として認定されるための要件の一つに、年収が 130万円未満であることという収入要件がありますが、この要件に変更はありません。
なので、年収が130万円未満であっても、4分の3基準又は4要件を満たした場合は、厚生年金保険・健康保険の被保険者となります。


「これまで家族の扶養に入っていて、扶養の要件は満たす」ものの、「新たに4要件を満たすことで扶養から抜けて、自ら社会保険に加入する」というケースが出てくることが想定されます。

お知らせが送付されます

新たに適用拡大の対象となることが見込まれる事業所には、令和6年9月上旬までに「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が送付される予定です。

さらに、令和5年10月から令和6年8月までの各月のうち、使用される厚生年金保険の被保険者の総数が6か月以上50人を超えたことが確認できる場合、対象の適用事業所に対して「特定適用事業所該当通知書」が送付されます。
この場合、日本機構で特定適用事業所に該当したものとして扱うので、特定適用事業所該当届の届出は不要ですが、加入対象になる短時間労働者がいる場合は、「被保険者資格取得届」等の提出は事業所側で必要となるので注意しなければいけません。

適用拡大の対象となる従業員についての届書の準備、社内周知・従業員への説明等の期間が必要となりますので、早めの準備をお願いします。

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